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アニメーション表現の変革と子どもへの思い『高畑 勲展─日本のアニメーションに遺したもの』

2019.09.09

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〔今月の美術〕



ナビゲーター・文 松本由理子
まつもと ゆりこ/ちひろ美術館・東京元副館長、現在は公益財団法人いわさきちひろ記念事業団評議員。著書に『ちひろ美術館ものがたり』『いわさきちひろの願ったこと』、共著に『ちひろの世界』など。
写真は「第4章 スケッチの躍動—新たなアニメーショ ンへの挑戦」より『かぐや姫の物語』の展示室



高畑 勲監督の『かぐや姫の物語』の予告編を映画館で見たとき、鳥肌が立った。

太い線画で描かれたかぐや姫の造形、屋敷を飛び出し、十二単を脱ぎ捨てて疾走するシーンのスピード感と荒々しさ。背景画は、水墨画を見るようだった。

突然の訃報から一年余、高畑さんの業績の全貌を一望できる展覧会が始まった。本展を観て、『かぐや姫の物語』は、これまでのアニメーション映画の概念をはるか彼方に吹き飛ばす作品だと確信した。

『ホーホケキョとなりの山田くん』のあと、通常のセル画を描くアニメーションに戻る気はなく、「新しい表現をさらに発展させることができないなら、アニメーション映画を作れなくていい」と高畑さんは言っていた。

前作から14年、高畑さんの新作を、首を長くして待っていた世界中の人々に『かぐや姫の物語』を遺し、高畑さんは帰らぬ人となった。

高畑さんとちひろ美術館との出会いは、2003年の終わりごろ、「あなたの一番好きなちひろ作品」を公募する展覧会を企画したときだ。高畑さんから『戦火のなかの子どもたち』の一点が、次の言葉とともに送られてきた。

「空襲の朝、一面焼け落ち煙を上げ、焦げた匂いの中で、私と姉は黒い雨にうたれて寒さに震えていました。この少女のように。以来、情けないことに戦火はまだ続いていて、今も子どもたちがひどい目にあっています。東アジアの子どもの尊厳をみごとに表現したちひろさんは、『火垂るの墓』を作ったときもそれ以後も、日本の子どもをどう造形するかについて、彫刻家の佐藤忠良さんとともに、私たちのいちばんの導き手です」。

近年はちひろの絵について語り、絵の見せ方に関して助言してくださっていた。

展覧会では、自らは絵を描かない高畑さんのアニメーション作りが現物資料で展示されている。「アニメーションは共同作業だから」と高畑さんは言っていた。才能ある各分野のエキスパートの力を引き出し、外部スタッフも含め、皆に目指す方向を共有してもらうために、これほどの努力と作業が必要だったのだと痛感させられた。

代表作が一部上映されているのも嬉しい。もう3回見に行ったが、まだまだ見足りないほど充実した内容だ。

『高畑 勲展─日本のアニメーションに遺したもの』

1960年代から2018年に82歳で没するまで日本のアニメーションを牽引し続けたアニメーション監督、高畑 勲。『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』など代表作の原画や資料から、デジタル技術と手描きの融合などの演出術を解き明かす。

2019年10月6日まで
東京国立近代美術館
月曜、9月17日・24日休館(9月16日・23日は開館)
一般1500円
URL:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/takahata-ten/

●お問い合わせ
ハローダイヤル
TEL:03(5777)8600
岡山県立美術館に巡回
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/川瀬一絵
『家庭画報』2019年10月号掲載。この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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