未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。今回は「機器のネットワーク化によって収集された手術データを意思決定や合併症予防に生かすシステム」についてです。
前回の記事はこちら>> 機器のネットワーク化によって収集された手術データを意思決定や合併症予防に生かす
MRIへ移動できる手術台、4K解像度の立体画像の外視鏡、手術部位の位置を示すナビゲーション......。東京女子医科大学で今年、2019年8月から“未来の手術室”が本格稼働する予定です。
同大学先端生命医科学研究所副所長の村垣善浩さんにこの手術室の特徴や開発の経緯などを聞きました。
〔未来を創ろうとしている人〕村垣善浩(むらがき よしひろ)さん東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 副所長
同大学先端工学外科学分野 教授 脳神経外科 教授
1986年神戸大学医学部卒業。東京女子医科大学脳神経センター 脳神経外科研修医、助手を経て、92~95年米国ペンシルバニア大学 病理学教室に留学。帰国後、同センター医局長、九州大学第2外科への国内留学を経て、2006年東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/脳神経外科(兼任)へ異動。11年から現職。医療機器をつなぎ、術中の位置・時間情報を一元化
村垣さんは、2000年に日本で初めて手術室に脳神経外科専用MRIを導入しました。
専門とする悪性脳腫瘍の多くは正常細胞と腫瘍の違いがわかりにくいこと、開頭すると脳脊髄液が漏れ、脳の位置が手術前と変わることから、術中にMRIを撮影することでより安全で正確な手術ができるのです。
「神経膠種の手術の際には2〜5回撮影しています」。また、手術を行う顕微鏡の画面上に患部や手術器具の位置を示し、MRI画像とも重ねられるナビゲーションシステムも取り入れました。
そして、この術中MRIやナビゲーションシステムを核として、さまざまな手術の情報を見える化した手術室を“インテリジェント手術室”と名付けました。
中央の手術台は左奥のMRIに移動できる。20の医療機器がLANケーブルでつながり、時間を揃えてデータをモニターに表示、記録する。東京女子医大ではこの手術室で2000例の手術が行われ、このシステムは徐々に普及してきています。
さらに、04年には手術室の外から手術室内のほぼすべての医療機器のモニターを見ることができ、執刀中の医師にアドバイスができる“手術戦略デスク”も設置。
「経験豊富な外科医が外で冷静に判断してくれれば、心強い後ろ盾がある状況で手術に臨んでもらえます」。
5Gのようなスピーディなインターネット回線が安定して使えるようになると遠隔での支援も可能です。
手術室内と、離れた手術戦略デスクには同じデータが表示される。手術戦略デスクの外科医が切除部位を指示している様子。このシステムは信州大学と広島大学でも稼動中。4K解像度の3Dの外視鏡(レンズは外についている)。顕微鏡手術と異なり、外科医は位置取りが自由になる。