こういった主人側と従業員の関係はうちのような料理屋にとってはとても大切なことだと思っています。料理は一人ではできません。チームワークがあってこそなんです。調理ということにおいても、煮方や焼き方。それを盛りつける人、運ぶ人。もっといえばお客さまをお迎えする人、部屋を整える人。いろいろな人がかかわり、その思いは一つでないといいおもてなしはできません。
うちのお祖父さん、菊乃井の創業者がよういうてました。「人と物の使い捨てはいかん」と。昔は縁あってうちに来てくれた人やから、一生面倒見る。という気持ちが経営側にもありました。菊乃井を巣立った子たちもいろいろです。割烹やっている子も多いですが、イタリアンやおすし屋、うどん屋さんになった子もいて、そういった進路を見つけてあげたりもしました。先ほどの物の使い捨てということでいえば、「材料はいちばんええものを買うて、頭からしっぽまで使いきってほかすこと(捨てること)のないように」というのが祖父の教え。
使いきることで素材も成仏するというのが精進の考え方です。今回は精進の煮物を作りました。時知らずの乾物をうまく使うのは京料理の伝統です。昆布やかんぴょうを砧に巻くのが料理屋ならではの技ですね。
藪入りの頃は、ちょうどお盆でもあります。昆布やかんぴょう、しいたけといった精進の煮物はこの時期よくいただくもの。じっくりと煮て味を含ませて。器は桃山時代の黒織部沓形鉢。
村田吉弘/Yoshihiro Murata
料亭「菊乃井」3代目主人。
京都の本店と木屋町店、東京の赤坂店の3店舗を統括し、この春に京都の本店の隣に、お弁当と甘味を供する「サロン・ド・無碍」をオープン。日本料理アカデミー理事長ほか数々の要職を歴任し、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。和食を日本文化の重要な一つと考え、世界に発信するとともに、後世に伝え継ぐことをライフワークと考える。
和食文化の面白さ、奥深さがわかる一冊! 菊乃井・村田吉弘さんの人気連載が本になりました
菊乃井・村田吉弘の<和食世界遺産>和食のこころ 村田吉弘 著
撮影/小林庸浩
「家庭画報」2017年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。