村田家の家宝ともいえる梅干しは、一五〇年前のもの。
「梅仕事」という言葉があります。昔はどこの家庭でも梅干しを漬けたものですよね。この梅干しや煮梅、梅酒なんかを作る作業を梅仕事といいます。煮梅や梅酒は青梅を使い、梅干しは黄色く熟したものを使います。
菊乃井では季節になると青梅の蜜煮の瓶詰を作ります。最近は白ワインで作るのですがこれがさっぱりとしていいものです。作り方をお教えしますのでぜひ試してみてください。(※次ページ)
女の人はこの梅仕事の時季になると、とたんにそわそわしだしたものです。梅を漬け、その梅酢で生姜、らっきょうを漬ける。全部やろうとすると、梅仕事は一か月以上はかかります。梅干しの作業で土用干しというのがありまして、梅雨の明けた晴れた日にざるに梅を並べて天日干しするのですが、この時季まだまだ雨も多く予断を許さないのです。母は「夜もおちおち寝てられん」とよういうてました。表面が乾いてしわしわになるまで干すことが大事。雨で濡らそうもんなら一大事、というわけです。
うちには僕のひいお祖母さんが漬けて、お祖母さんがお嫁入りのときに持ってきたという梅干しが今もあります。かれこれ、一五〇年ものですよ。ちょっと恐くて食べられませんでしたが、今回の取材を機にいただいてみました。思ったほどしょっぱくはありませんでしたが、堅いのなんの。果肉はほとんど感じられませんでしたが、酸味や梅干しの香りはまだほのかにあり、長い間口の中でしゃぶっていてもずっとうまみが残っていました。
村田吉弘さんのひいお祖母さまが漬けた 一五〇年物の梅干し。村田家の家宝ともいえる。
長い年月のなせる業なのか、なんだか村田家のご先祖さまのことなんかも思い起こされました。最近ではお家で漬けられるかたも減りましたけれど、梅干しや漬物はその家の味。できれば大事にして受け継いでいきたいですよね。