いかにも日本的な桜の潔さとはかなさ。
僕も桜には相当の思い入れがあります。京都の本店の玄関前に山桜の木が三本あります。母が嫁いできたときは小さかったそうで、それが今や店の前庭を覆うほどの大木に育っています。僕はそれこそ生まれたときから桜を見て大きくなりました。桜の命は短い。満開の時期は一週間ほどで、ぱっと咲いてぱっと散る。この潔さ、はかなさがいかにも日本的な美意識なんやろうな。
うちの山桜もあるとき空も見えへんほど、真っ白になる。この満開の桜が少しするといっせいに、まるで吹雪のように舞い散るのです。この散り際が僕はいちばん好きですね。そして桜はやっぱり山桜。侘びた感じがあって京言葉でいうところの「こうと」というか「はんなり」。これは上手にいえへんけど、華やかでいて質素、品格のある「綺麗寂び」の琳派的な美しさなんやな。
村田さんの好きな夜桜が浮き出る、凝った闇蒔絵の漆器。夜桜蒔絵干菓子盆/梶古美術
日本人好みの桜は絵画や漆器、陶磁器など、さまざまな美術品や工芸品のモチーフになってきました。家のしつらいからそれこそ食卓の器にまで四季を演出する日本人が、ほんのいっときしか使えないからこその品を愛でる。それも心の贅沢であり、季節を強く感じる喜びなんだと思います。今回のお弁当を盛った提重(さげじゅう)は江戸期の品です。菊の蒔絵に桜などの紋が贅沢に施されていてお花見や紅葉狩りに活躍したことでしょう。満開の桜の下で楽しんでいる人々が目に浮かぶようです。