「ミス ディオール」―。それは花の庭園から生まれた“美の再生”の象徴です―フレデリック・ブードゥリエさん
パルファン・クリスチャン・ディオール ブランド ヘリテージ&パトリモニーディレクター
フレデリック・ブードゥリエさん
パリ第4大学にて歴史の学士号を取得後、パリ政治学院へ進み、政治学・社会学を学んで卒業。2000年にパルファン・クリスチャン・ディオール入社。ブランドの遺産を研究・管理している。「ドレスをまとった女性の美を完成させるには香りが必要だ、とクリスチャン・ディオールは考えていました。そして『女性たちに希望を与える愛のような香りを作ってほしい』とオーダーしたのが『ミス ディオール』だったのです」と、フレデリック・ブードゥリエさんは語ります。
©Pat English
1947年2月12日、ディオールは厳寒のパリで初のコレクションを発表。モンテーニュ通りのブティックは館中が「ミス ディオール」の香りで満たされ、伝説となった「ニュールック」とともに華やかな春の喜びを世界に発信した。1947年、初コレクションとともに登場したこの香りの名は、ディオールの妹、カトリーヌに由来します。初めて創った香りの名前を探していた彼は、サロンに現れた妹を呼ぶ「ほら、ミス ディオールよ」という声に天啓を得たのです。
©Christian Dior Parfums Collection
現在のボトルのもととなった千鳥格子入りデザインも同時期に作られた。フレンチ・エレガンスの真髄を若々しく再生させた香り
©Christian Dior Parfums Collection
「ミス ディオール」の名の由来となった妹、カトリーヌ。「カトリーヌは、ディオールにとって花への愛を共有できる同志のような存在でした。最愛の妹へ捧げた香りは、ジャスミンやバラが咲き誇る幸せに満ちた庭園のイメージ。
©Antoine Kralik
1947年に発表された、最初の香水ボトルはアンフォラ型だった。世界大戦で荒廃したフランスと、疲弊した女性たちを美しい花々で癒やしたいという彼の切なる思いが込められていました。「マダムでもマドモワゼルでもなく“ミス”なのは、年の離れた妹と新時代のみずみずしさが持つ、若さの反映だと思います」(ブードゥリエさん)
ミス ディオールは、フランスが大事に育んできた優雅な文化を甦らせる役目も果たしました。失われそうだった“エレガンス”の真髄を、香りとモードを通して世界に示したのです。
©Laziz Hamani
無数の花々の刺繡で彩られたミス ディオールドレスは1949年春夏コレクションに登場。「長い冬の後、花が開き、すべてが再生する“春”の象徴でした。美しいものを崇拝し、夢見る心を忘れなかったディオールは、その気持ちを香りにのせて世界の女性たちとシェアしたいと願ったのです。わくわくするような誘いと幸福感に溢れた香りは、女性の欲求を察知する才に長けていた彼らしい発想です」(ブードゥリエさん)
“1人1人の女性は大事に敬われるべきプリンセス”という哲学が凝縮されたミス ディオール。だからこそ、70年以上経った今も色褪せず、女性たちを輝かせるのです。
一路真輝さん
ワンピース8万7000円/ストラネス(三喜商事)イヤリング450万円/サバース2019年11月7日に越路吹雪40回忌公演『Après Toi~アプレ・トワ』(中野サンプラザ)に出演予定。
表示価格はすべて税抜きです。
撮影/戸田嘉昭〈パイルドライバー〉(静物) 富田眞光〈vale.〉(人物) スタイリング/高橋尚美(静物) 江島モモ(人物) ヘア&メイク/黒田啓蔵〈ThreePEACE〉 取材・文/佐藤由喜美 渡辺佳子
『家庭画報』2019年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。