久しぶりに作ったと、ぼた餅をお重に詰める村田さん。
ご先祖さまと命について考えてみませんか
日本人独特の死生観、精進の根本精神は料理人にとってとても大事なことです。「いただきます」ということばには、自然の恵み、そして今日も食事ができることへの感謝の気持ちが込められていますが、それだけではありません。私たちが生きるために糧となってくれた「生きもの」、命を捧げてくれたものに対してそれを「いただく」という気持ちです。自然とともに生きる日本人にとって当たり前のこの気持ちは、料理をする者にとって、その魂の中に持っておくべきものだと思うのです。
お彼岸はせめて年に二回、命について考えるよい機会ではないでしょうか。うちの母は子どもが四人もいて、女将さんもしながらようぼた餅やら精進のおすしやら作る時間があったもんやと感心します。今でも調理場の子に「お彼岸やし、精進のおすし作ってな」と声をかけています。お彼岸にぼた餅を作る時間がないなら買ってきてもいいから、せめてその前で手を合わせてご先祖さまと命について考えてみるのもいいかもしれません。
村田吉弘/Yoshihiro Murata
料亭「菊乃井」3代目主人。
京都の本店と木屋町店、東京の赤坂店の3店舗を統括し、この春に京都の本店の隣に、お弁当と甘味を供する「サロン・ド・無碍」をオープン。日本料理アカデミー理事長ほか数々の要職を歴任し、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。和食を日本文化の重要な一つと考え、世界に発信するとともに、後世に伝え継ぐことをライフワークと考える。
和食文化の面白さ、奥深さがわかる一冊! 菊乃井・村田吉弘さんの人気連載が本になりました
菊乃井・村田吉弘の<和食世界遺産>和食のこころ 村田吉弘 著
撮影/小林庸浩
「家庭画報」2017年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。