皮も葉も茎も
大根には捨てるところがない。
大根もかぶらも同じ種が、採れるところによって形や味が変わってきます。例えば聖護院大根。京都の聖護院あたりで採れたのでこの名がありますが、天王寺で採れた天王寺かぶらがもとの種です。これを聖護院で植えたらあんなに大きくなったんです。形も、聖護院のは甲高、縦に長くて天王寺のはどちらかというと平べったくて、例えていえば鏡餅のような形です。
京都近郊、亀岡のかぶらの畑にて。色白できめが細かく身の引き締まったかぶらができる。
作物は風土が変われば形も、大きさも、味も変わってあたりまえ。すぐき菜だって長野県にいけば野沢菜になりますしね。京都の人間は天王寺のかぶらは水っぽいといいますが、確かに聖護院のほうが一日の寒暖差が大きいて身がしまってますな。きめもこまかいし、千枚漬けにするとやっぱり味が違います。
千枚漬けは、京都の冬を代表する漬物。薄く切ったかぶらを、昆布にはさんで漬け込む。
僕は大根は日本のおかずのおおもと、読んで字のごとくおかずの「おおね」だと思っています。煮汁であめ色に染まった大根。その煮えるいい匂いは日本人なら誰しもが食欲をそそられることでしょう。
大根はまず、捨てるとこがない。
身はもちろん、煮たり、蒸したりしていただきますが、グルタミン酸が豊富なのでそれだけでいいだしを出してくれます。大根だけで煮てもおいしいし、塩もみしてもいい、ふろふきにしてお味噌で食べてもいいですね。昔はむいた皮はざるに入れて軒先につるしたもんです。この皮から、いいだしが出るんですよ。葉や茎は煎り煮にしてもいいし、ご飯に混ぜてもいい。
京都は精進の考え方が根本にあります。作物に感謝して余すことなくいただく大切さ。秋が深くなり霜がおり、日に日に寒さが増してくると根のものは甘みが増し、身もしっかりしてきます。これは日本人にとって昔からなによりのご馳走だったんですね。今日も底冷えがきついですね。うちも今夜はぶり大根にしましょうか。
京都の冬野菜いろいろ。大根やかぶら、京にんじんなど。(写真/古市和義)
村田吉弘/Yoshihiro Murata
料亭「菊乃井」3代目主人。
京都の本店と木屋町店、東京の赤坂店の3店舗を統括し、この春に京都の本店の隣に、お弁当と甘味を供する「サロン・ド・無碍」をオープン。日本料理アカデミー理事長ほか数々の要職を歴任し、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。和食を日本文化の重要な一つと考え、世界に発信するとともに、後世に伝え継ぐことをライフワークと考える。
和食文化の面白さ、奥深さがわかる一冊! 菊乃井・村田吉弘さんの人気連載が本になりました
菊乃井・村田吉弘の<和食世界遺産>和食のこころ 村田吉弘 著
撮影/小林庸浩
「家庭画報」2017年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。