「テーブルコーディネートはテーブル“カラー”コーディネート」
「子どもの頃から、とにかく食器に夢中だったんです。茶道、華道、書道を嗜んでいた祖母は和食器と骨董好きで、母は洋食器好きと、身の回りにはいつもきれいな食器がありました」。
初めて自分で買った器は、「ロイヤル コペンハーゲン」のティーポット。手描きの絵付けのやさしいライン、ゆったりとしたシルエットのそのポットは、今も日々の暮らしに癒しを与えてくれる、欠かせない宝物です。
22歳のときに初めて買ったロイヤル コペンハーゲンのポット。当時はブランドショップもなく、銀座のティールームから譲ってもらった貴重品。きっかけは1冊の本から……
食器への想いを温めていた20代半ばのある日、書店で見つけた1冊の本が横瀬さんの人生を大きく変えることになります。
それはクニエダヤスエさんの『テーブルコーディネーション 食卓を楽しむ』。1970年代の終わりから、テーブルコーディネーターとして活動していたクニエダさんは、この世界のパイオニア。テーブルコーディネートという概念を広く知らしめた立役者でもあります。
「あぁこんな素敵なお仕事があるんだ! と衝撃を受けました。手を尽くしてクニエダ先生にご連絡をしてみたら、『ではまずセミナーにいらっしゃい』 と。
1年間そのセミナーに通ったものの、ここで終わるのではもったいないし、もっと学びたい……。何とか先生のアシスタントに採用していただくことができました」。
今も時折手に取る、1981年刊行の『テーブル コーディネーション~食卓を楽しむ』(文化出版刊)。今だからわかる、新たな気づきも多いとか。アシスタント時代を振り返って
テーブルコーディネーターの第一人者・クニエダ先生のもとでの2年間は、厳しく多忙な日々。
「テーブルコーディネートは、テーブルカラーコーディネートである、ということを徹底的に叩き込まれました。
スタートは白い食器。それに合わせるクロスやリネンで変化をつけることでテーブルの世界が広がる、これが先生の基本の考え方でした。
今も、コーディネートに悩んだり、行き詰まったりすると、白い器を手に取ってしまいますね。基本に戻り、初心に帰れるのが、白い器なのかもしれません」
食卓から空間へ。広がるコーディネートの世界
独立後は、自ら営業をしながら、女性誌・婦人誌のコーディネートページで徐々に活動を始めた横瀬さん。
『家庭画報』本誌にその名が登場したのは、今から30年ほど前のこと。最初の頃に担当した「ペルシャ絨毯」のテーマは、今でも忘れられないとおっしゃいます。
「今までずっと食卓の上、食卓の周辺のコーディネートだったのに、いきなり絨毯ってどうしよう?? でも、どんなに空間が大きくなっても『コーディネートはカラーコーディネート』、『同系色で揃えるのが基本、単調にならないように差し色を』。
それはインテリアでも同じだと気がついたら、一気に世界が開けて(笑)。クニエダ先生に、本当に感謝ですね」
当時小学1年生だったご子息が、横瀬さんに「素敵でしょ!」と贈ってくれた箸置きは、大切な宝物。家族の記憶に繋がる食器もコーディネートに加えたい。以降、仕事の幅は大きく広がり、百貨店のインテリアコーディネートや店内ディスプレイなども手がけるように。
「テーブルの上という小さいスペースからコーディネートを始めて、次に座ったときに見えるカーテンはどうする? 壁の色は? とどんどん空間を拡大して考えていきます。食器やカトラリー、お花や料理という雑多な要素の多いテーブルのコーディネートができたら、大きい空間だって大丈夫だと思うんです」
「クロスおたくなんですよ」と笑う横瀬さん。テーブルや空間で大きな面積を占めるリネン類は、その場の雰囲気を演出する必須アイテム。カラフルな野菜をあしらったロイヤル コペンハーゲンの「ホワイトエレメンツ」のエスプレッソカップに、ポットのコンソメを注いで。新旧のロイヤル コペンハーゲンの競演で始まるディナー。達成感こそが仕事の原動力
「30代から40代にかけてはフランスやヨーロッパを旅することが多く、そのすべてに感動して、そのすべてがコーディネートのヒントになりました」。
景色、人々の感性、食文化……、とりわけ感銘を受けたのは、フランスの色彩感覚。この頃に学んだヨーロッパテイストのコーディネートは今も大きな財産です。
「心のどこかでアジアのDNAがうずいていたのか(笑)、50代になってからは、ヨーロッパのエスプリに洗練されたアジアンテイストを加えるコーディネートに落ち着いてきました」
最近のお気に入りは、2019年に新しくお目見えしたロイヤル コペンハーゲンの「ハウ」シリーズのポットに、カップ&ソーサー。
「ロイヤル コペンハーゲンのクラシックなモチーフがさりげなくちりばめられたデザインが老舗らしくて素敵。フォルムもモダンで美しい。この進化した器を見たときに、40年前に買った王道のロイヤル コペンハーゲンの器と合わせてみたい!って閃いたんです」。
クラシックなプレートとモダンなソーサーの間には、ノンブランドのフランスの白い磁器をはさみ、程よい軽さもプラス。合わせるクロスにはアジアンテイストの青をチョイスしました。
存在感のあるポットを、テーブルのポイントに。ブルーのクロスにディンゴファンのグリーンが揺らぐ、深海のイメージのセッティング。「ちょっと重たいかなと思って、しばらく食器棚で眠っていたクラシックな器も、この組み合わせで新しい表情を見せてくれました。
こんなふうに、コーディネートをあれこれ考えて、悩んで、決めるときの楽しさ。そして実際に組み合わせて、でき上がったときの喜び。
その気持ちが、何よりの私の原動力。この達成感がある限り、コーディネートのお仕事はやめられそうにありません」
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『家庭画報』をはじめとする女性誌で活躍する、インテリアスタイリストの横瀬多美保さん。1年間にわたり、ご自身の1LDKでの暮らしを綴った『家庭画報.com』の人気連載が、ついに一冊の本になりました。コーディネートの組み立て方、“自分らしい”空間の作り方も初公開。今すぐに活用できる暮らしのtipsが満載です。