野山を駆け巡って育った私にとって、きのこは特別な食材のひとつです。煮ても、焼いても、揚げてもおいしいもの。香りと食感をいかすよう心がけています。その名の由来に諸説ある治部煮。とろりとしてちょっと濃厚な味わいは、秋深まった頃にぴったりではないでしょうか。詳しいレシピは次ページ>>料理・文/大原千鶴
きのこの香りは山の匂い。きのこを食べる時、いつもそんなふうに思います。
きのこはその名の通り、朽ちた木や湿った落ち葉の中からニョキニョキと生えるもの。土から出ている部分は、実はほんの一部。
そしてきのこはご存知の通り、種ではなく胞子で増えるもの。胞子が朽ち木や枯葉に落ちて、そこから菌糸が伸びていき、朽ち木や枯葉から栄養を取りながら菌糸が育ちます。
その菌糸はものすごく深く広く伸びていくのですよ。そうして伸びている菌糸にちょうどよい気温で雨が降ると、あの目に見えるきのこがニョキッと生えてくるのです。
ですからきのこの下にはものすごく大きな菌糸ネットワークがあり、そのネットワークのおかげで山が枯葉だらけにならず綺麗に保てるのですね。
そう思ってきのこを見ると、本当に山の生態系ってうまくできているなぁと思います。
中学生の時にクラスのみんなと(といっても4人ですが)先生ときのこ狩りに行ったことがあります。
松茸を探してウロウロ。でもそんなに簡単に見つかるわけもなく、やっと見つけたものはイノシシに先を越されて軸だけになっていたり、小さなものなどは枯葉に隠れているのに気づけず、あやうく踏みそうになったり。面白い体験でした。
現在私が住んでいるところの近くにある京都御苑にも、たくさんきのこが生えます。雨の後散歩に行くと、昨日まで何もなかった林の下にここにもあちらにもきのこが生えていたりします。
中には昔外国の絵本で見たようなきのこがあったり、絶対に食べたらダメな感じがするものもあります。色や形の面白さにあちこち探して驚いて。そんな散歩も雨上がりの楽しみです。
秋は雨の量や気候が、きのこが出やすい条件にあっているから、きのこの旬は秋なのですね。
自分で採ったきのこは恐ろしくて食べられませんから、散歩の後はスーパーできのこ狩り。スーパーのきのこは年中あってお安くて本当に助かります。
栽培化には数々のご苦労があったことと感謝しながら、気軽に秋を堪能したいと思います。
香り松茸、味しめじといいますがどのきのこにもそれぞれのよさがあります
松茸や知らぬ木の葉のへばり付く(松尾芭蕉)
芭蕉さんもきのこがお好きで、ご自分で作ったお月見の膳にはきのこがたくさんのぼったと聞いたことがあります。その頃から松茸には特別感があったのでしょうか。
きのこは香りと食感が大切です。そう考えれば、まいたけは天ぷらが、しめじは炊き込みご飯が一番おいしいいただきかたかな、と思います。
エリンギは味がのりにくいのでにんにくやオイルで濃い目の味付けで。裂いていただけば松茸気分です。