空高く馬肥ゆる10月、東京国立博物館に行ってきました!
早速、会場をご案内してまいります。
聖武天皇の遺愛品の数々を事細かに記載した「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」(奈良時代 天平勝宝8歳(756)制作 正倉院所蔵 前期展示)。最初の展示は「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」。奈良時代に光明皇后が夫の聖武天皇の冥福を祈って遺愛品を東大寺の本尊盧舎那仏に奉納しました。この600数点という遺愛品が正倉院宝物の根幹になっているのですが、「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」は膨大なその品々を仔細に記載した宝物リストなのです。
正倉院宝物が世界からも注目を浴びている理由のひとつは、1200年も前の文化財はほとんどが地面から出てくる出土品なのに対し、倉に収められた宝物が人々によって保管・修復されながら守られ、美品のまま現存しているということ。
それから、「東大寺献物帳(国家珍宝帳)」が添えられていたということ。それぞれの宝物の名称や誰がどのように使っていたのか、さらには材質まで文書で遺されていたことで、宝物の用途が正確に伝えられてきたのです。
およそ15mの長い巻物に宝物の仔細が丁寧な文字で綴られています。また巻末には「ご遺愛の品々を見ていると悲しくて狂いそうだ」といった光明皇后の深い悲しみのお気持ちまで。古代悠久のロマンスもこの巻物から感じられます。光明皇后は聖武天皇の四十九日に600数点もの遺愛の品を献納したのです。その後、果たしてご自身はどのような暮らしをされたのでしょう……。光明皇后様の不変の愛と深い悲しみを感じながら展示室を進みます。
「平螺鈿背円鏡(へいらでんはいえんきょう)」(中国・唐時代 8世紀制作 正倉院所蔵 前期展示)。鏡の背面には白く輝く螺鈿(屋久島など南部に生息する夜行貝)がふんだんに埋め込まれています。またミャンマーの奥地が産地の赤く輝く琥珀、西アジアのラピスラズリなど世界各地の石も散りばめられ栄華の時代を感じます。正倉院宝物の中でもとくに有名な「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」(中国・唐時代 8世紀制作 正倉院所蔵 前期展示)。たいてい琵琶は絃が四本であるのに対しこの宝物は五本。インド起源の五絃の琵琶と言われていますが、中央アジアなどの壁画には描かれているものの、現存するのは世界でもこの一本という非常に価値ある宝物です。「螺鈿紫檀五絃琵琶」の背面。繊細な線描がほどこされた大小の花が見事なまでに咲き乱れています。この花は宝相華文様と呼ばれるもので、実在しない空想上のお花。浄土や仏様の世界で咲くと言われています。
「塵芥(じんかい)」(飛鳥〜奈良時代 7〜8世紀制作 正倉院所蔵 通期展示)。正倉院宝物の中には、破損していたり、もとの姿が不明のものもあるのですが、塵ひとつ破棄することはありません。こうしてひとつひとつ選別し、整理をして古裂帳などを製作するのだそうです。最後の展示室には正倉の一部原寸大を再現! また、扉を施錠する鍵は江戸時代まで使われていた鍵が展示されています。出口に添えられていたのは、帝室博物館(現東京国立博物館など)の総長であった森鴎外の和歌。木でできた校倉造りの倉が燃えずに永久に立つ。私たちの国は夢の国――。1200年も前の宝物をこの国は守ってきた、そこに正倉院の価値がある。これは単なる奇跡ではなく、努力であると鴎外は言っています。森鴎外の和歌の通り、1200年の長い時を経ても尚、美しい輝きを放っている宝物は人々の弛まぬ努力があってこそ。この素晴らしい文化財が失われることなくずっと後世に受け継がれていきますように。