先輩エディター相澤慶子さんに正倉院宝物の魅力を伺いました
きもの編集の第一人者で、毎年奈良の正倉院展には欠かさず観に行く相澤慶子さんに正倉院展の見どころをうかがいました。
相澤慶子さん(以下、相澤)「1200年以上前の最高権力者の宝物ということは、その時代の最高峰の技術と素材が使われているということですよね。まずはそれが美しい姿のまま現存しているということをどうぞ味わってください。それから1200年後の私たちを魅了し続けているのも面白いなと思いますね。同じ民族としてのDNAが美意識を共有しているのではないでしょうか」
なぜ、毎年奈良まで見に行くのですか?
相澤「最初に行った時、とくに古裂などは色も柄も「なんだろう?」と思うばかりでした。でも何度も通ううちに色彩や柄が見え始めたんです。それ以来、毎年行くことにしました。実際に行かなければ感動できないことがたくさんあるんです。例えば「螺鈿紫檀五絃琵琶」は写真だと前面しか載っていないこともありますよね。でも展覧会では背面や側面など事細かに見ることができます」
「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」(中国・唐時代 8世紀制作 正倉院所蔵 前期展示)。側面や頭の部分にまで螺鈿や琥珀、べっ甲がふんだんに使われ、きらびやかな宝相華文様が施されているのがわかります。ぜひとも直接観てその感動を味わってください!相澤「また写真ではわかりにくい大きさ、小ささ、質感をしっかりと感じることもできるんです。毎回新たな発見があるんですよ」
内覧会に展示されていた「花氈」(中国・唐時代 8世紀制作 正倉院所蔵 前期展示)。羊毛を圧縮して作られています。よく見ると、中央には男の子がホッケーのスティックのようなものを持っている姿が。さらに遊ぶボールまで表現されています。ウールの厚みや質感は確かに写真だけでは気づきにくい部分です。「紺牙撥鏤碁子(こんげばちるのきし)」(中国・唐または奈良時代 8世紀制作 正倉院所蔵 展示替あり)。こんなに小さな囲碁の碁石にも細かな花喰鳥文様が! 素材の象牙は表面しか染まらないため、藍で染めた後に花喰鳥を彫っているそうです。素材の特性が生かされた技法で手掛けられていることもわかります。相澤「緻密な作業と感動するほどの美意識で作られた宝物を目の当たりにすると、果たして1200年前の人たちよりも私たちは進化しているのだろうかと疑問を感じます。決して奈良から動かすことのない宝物を東京に運んだというだけでもすごいこと。この機会を見逃さないようにしてくださいね」