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“グランドホテル形式”で人間を描く連作短編集『お願いおむらいす』

2019.10.29

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〔今月の本〕

中澤日菜子さん

中澤日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都出身。2013年に小説現代長編新人賞を受賞した『お父さんと伊藤さん』でデビュー。著書に『PTAグランパ!』『星球』『ニュータウンクロニクル』などがある。


ご当地料理に世界のグルメ、ラーメン、スイーツと、人気の味が一堂に会す巨大な食のテーマパーク《ぐるフェス》。


賑やかな食の祭典を舞台に、それぞれ事情を抱える5人の悲喜交々の人生を描いた中澤日菜子さんの『お願いおむらいす』は、登場人物に向けた著者の眼差しの温かさが伝わる連作短編集だ。

「食べることが大好きで、食の楽しさを核にした小説を書きたいと思っているとき、フードフェスに足を運ぶ機会があったんです。巨大な食のテーマパークには、出店者やお客さん以外にも大勢の裏方スタッフがかかわっているので、この場に集まった人たちのことを“グランドホテル形式”で書けば、きっとおもしろくなるだろう、と。

互いの存在は知らないけれど、同じ日、同じ時間にたまたまぐるフェスという場に居合わせたことで、一瞬、人生が交錯する——そんな人たちの姿を描きました」と中澤さん。

長く演劇に携わってきた中澤さんにとって、場はいわば舞台装置。“訪れた場所に惹かれると、その風景や空気感を描きたくなりますね”と話すように、場に感化されて物語が立ち上がることは少なくないとのこと。

本作では、厳しい現実を前に、夢と現実、本音と建て前のあいだでもがきながら健気に生きている人々を描いているが、そんな彼らについて、

「一生懸命やってきたのにリストラされるとか、物事が思うようにいかないとか......。こういう息苦しい世の中だと、自分のやっていることを無意味に感じてしまうことは、誰にでもあると思うんです。

小説の主人公たちだけでなく、人生の分岐点に立っている人、悩みや不安を抱えている人はきっと少なくないので、そういう人たちの背中をそっと後押しできるような、そんな小説を書くことができればという思いで書きました」という。

かつてはご自身が書く戯曲も、読書も幻想的、SF的なものが好みだったそうだが、年を重ね、避けられない人生の問題に向き合うなかで、作風も変わっていったという中澤さん。

脚本執筆で培われた巧みな台詞だけでなく、登場人物の心情をさらりと表現する平易なことばも、読者の共感を誘うのだろう。

「井上ひさし先生の“むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに”は、本当に名言だと思っているので、先生の教えを受けた者として、常にこのことばを肝に銘じて書いています」

『お願いおむらいす』


『お願いおむらいす』

中澤日菜子 著/小学館 1500円
表示価格はすべて税抜きです。
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎

『家庭画報』2019年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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