『抽斗(ひきだし)のなかの海』
朝吹真理子 著/中央公論新社デビューから10年、朝吹真理子さんの初めてのエッセイ集。
吉田健一、大江健三郎、金井美恵子をはじめ、敬意を抱いている文学者や音楽、アートについての細部まで目配りされた文章からは、自身の小説にも通底する嗜好やセンスが伝わり、「たこ焼きとバーボンチェリー」や「臍の受難」などのエッセイを読めば、そのクールな印象とのギャップに頰が緩む——そんな本書で特筆すべきは、各エッセイを読み返した朝吹さんが「小さな応答」という短文を寄せている点だろう。
“作品は、何もないところから生まれるのではなく、すでにある作品への応答という気がしている”という著者の現在や関心事をうかがうことができる、ファン待望の一冊。
『家庭画報』2019年11月号掲載。
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