人生100年時代の「ホルモン補充療法」“攻め”の更年期 第3回(全4回) 人生100年時代の今、閉経後の50年余りを健康でいきいきと生活するためには、更年期の過ごし方が重要だと考えられるようになり、健康寿命を延ばす観点からも閉経によって欠乏するエストロゲンを補う「ホルモン補充療法」が注目されています。そこで、ホルモン補充療法のメリットを高齢期にも生かす“攻めの更年期”の過ごし方をご提案します。
前回の記事はこちら>> 更年期を軽やかに乗り切り、充実した第二の人生を
更年期を軽やかに乗り切り、充実した第二の人生を送るために注目されている治療法が「ホルモン補充療法(HRT)」です。まず閉経前後、女性の体にはどのような変化が起こり、それに対してHRTはどんな効果があるのかを知りましょう。
東京歯科大学 准教授 市川総合病院産婦人科 医長
小川真里子(おがわ・まりこ)先生
福島県立医科大学卒業。慶應義塾大学産婦人科を経て2015年より現職。更年期医学と女性心身医学を専門とし、多くの女性のホルモンにかかわる悩みに対応している。日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医。閉経前後、女性の体にはどんなことが起こってくる?
エストロゲンが欠乏し多様な更年期症状が次々と出現する
「更年期」とは閉経の前後5年間の時期をいいます。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳ですが、人によってまちまちです。
では、更年期の始まりを自覚することはできるのでしょうか。
「月経の間隔が短くなる、あるいは長くなるといったように周期が乱れた状態を数回繰り返すようになれば更年期が始まっている可能性もあります。しかし、違う場合も多く、自覚するのは実は難しいのです」と小川真里子先生はいいます。
ただ、更年期になると女性ホルモン(エストロゲン)の量が急激に減り、代わりに卵巣を刺激して女性ホルモンの分泌を促す卵胞刺激ホルモンの量が増えてきます。
それに伴い、のぼせ、ほてり、発汗、めまいなど自律神経系の症状が現れます。
そして、このような更年期症状を皮切りに、手のこわばり、関節の痛み、動悸、頻尿、萎縮性膣炎、性交痛、疲労感、不眠、冷えなどの身体症状だけでなく、不安、イライラ、抑うつ、物忘れ、集中力の低下といった精神症状まで、さまざまな症状が次々と出現します。
「更年期症状がこれほど多様なのは、女性ホルモンを受け取るエストロゲン受容体が全身に存在するからです。まさに女性の体は初潮から閉経までの約40年間、女性ホルモンに守られてきたといっても過言ではありません」と小川先生はいいます。
血管や骨の老化も急速に進む
「さらに、女性ホルモンには善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールや中性脂肪の増加を抑える働きもあります。また、骨代謝の際、必要以上に骨が溶け出さないように作用し、骨量を維持します」。
つまり、更年期以降エストロゲンが欠乏することで、脂質異常症や動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、骨粗しょう症など高齢期の健康を脅かす疾患リスクも高まってくるのです。
女性ホルモン欠乏によって出現する諸症状
40代前半の月経不順、不正出血に始まり、後半から女性ホルモンが急激に減少するのに伴い、さまざまな身体的・精神的症状が出現し、それは高齢期全般にわたって続く。(更年期と加齢のヘルスケア,12(1),128-132,2013などを参考に作成)