――スウェーデンで見つけた食の知恵を教えてください。
保存食の種類が多いのには、驚きました。やはり冬が長いからですよね。酢漬けのバラエティは驚くほど。オイル漬けやジャム作りも盛んです。冷蔵庫がなかった時代から作られているのでしょうね。
私も赤玉ねぎのピクルスなどを冷蔵庫に常備しています。そして、酸味のあるものを加えると料理全体の味が引き締まる、というのもスウェーデンで学んだことのひとつね。
例えば、残り物のシチューに少しだけピクルスを加えると、ちょっと印象が変わるんです。ポキ丼に加えた、きゅうりのピクルスや赤玉ねぎのピクルスも、いい役目を果たしていると思うの。
『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』より、「スウェーデン風サーモン(グラブラックス)のポキ丼」。メインに使用しているグラブラックスとは、直訳すると「埋められた鮭」の意味。伝統の食材も、最近はポキ丼の具材としても人気。リンゴンベリー(こけもも)の酸味というのも、とても素敵。ジャムにして、「ミートボール」(p.178)や「手巻きロールキャベツ」(p.50)など、今回の書籍でも大活躍してくれました。
あと、カルダモン!このスパイスにはインド料理をはじめとしたサレ(塩気のある)な料理に使うイメージしかなかったけれど、デザートとも相性がいいのは嬉しい発見!「クリームバンズケーキ」(p.57)、「カルダモン風味のハートのビスケット」(p.188)などでご紹介しています。
――今回の書籍には、グルテンフリー、ビーガン、乳製品フリーのレシピも入っています。
夏至のパーティにお招きを受けたときに、スウェーデンの人たちが大好きなケーキ「クラッドカーカ」(フォンダンショコラに似たチョコレートケーキ)を作ってきてね、ってリクエストされたの。もちろん喜んで!って言ったら「でも、お客さまの中にビーガンの人、ナッツアレルギーの人、グルテンフリーの人がいるんだけど……」って。
だったらいっそ、精白糖もフリーにしてケーキを考えちゃおう、と誕生したのが「犬が食べちゃったチョコレートケーキ」(p.126)なんです。日本で小豆を甘く煮るように、黒豆をベースにしてみました。甘味はデーツ(なつめやしの実)でつけました。食物繊維も入ってるから、ヘルシーな仕上がりといっていいのではないかしら。
最近はお客さまをお呼びすると、必ずといっていいほどビーガンやグルテンフリー、ベジタリアンの方がいらっしゃる。どんなレシピがいいか相談されることも、とても多いんです。私はその方面の専門家ではないけれど、少しでもお役に立てれば嬉しいと思って、今回の本にも加えました。
――今回の書籍についての想いを伺えますか。
この書籍は、決して“伝統的なスウェーデン料理”の本ではありません。私がスウェーデンで経験したこと、スウェーデンの文化をどう見たか、どう吸収したか、どう解釈したかを一冊の中で表現したかったのです。
これまで、人生の章ごとに『パリの小さなキッチン』や『小さなフレンチキッチン』、『おいしい旅レシピ』を綴ってきました。だからこの本も、スウェーデンで新しいチャプターに入った私のひとつの集大成といえばいいでしょうか。実はこの本はスウェーデン語にも翻訳されていて、スウェーデンの皆さんにも喜んでいただいているみたいなんです。その温かさ、心の広さもスウェーデンの魅力ね。
レイチェル・クー/RACHEL KHOO
イギリス生まれの料理研究家、フードライター。ロンドンの芸術大学を卒業後、フランス菓子への情熱が高じてパリに移住。ル・コルドン・ブルーで製菓ディプロマを取得ののち、世界各地へ料理の旅へ出かける。2012年、等身大の暮らしとレシピを綴った『小さなパリのキッチン』が全英ナンバーワンのベストセラーに。さらに同名のテレビシリーズも人気を呼び、世界各地にその名が広がった。2016年にスウェーデンに移住し、現在はストックホルムでスウェーデン人の夫と子どもと暮らしている。
『レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン』2200円
撮影/西山 航(世界文化社) 取材・文/露木朋子 ヘア&メイク/Sai 表示価格は税別です。