異なる使い方をする左右の手の指でじかに弦に触れ、抱きかかえるようにして演奏するギターはとても繊細な楽器。緊張で体が少しでも固くなると、いい演奏はできない。
今回のようなプロセスを踏んだことで、早くから準備ができ、心に余裕を持って公演に臨めるのでとてもよかったと村治さんはいう。
「今いちばん楽しみなのは、リサイタルが終わった次の日の朝のほっとした時間ですね。前の晩の夢のような時間の余韻に少しだけ浸りながら、いつものカフェでまた日常に戻っていくのが楽しみです」
ちなみに今回、旅と一緒に映画をテーマにしたのは、デビュー25周年を迎えた昨年、全編映画音楽のアルバム『シネマ』をリリースしたため。
『カサブランカ』などの往年の名画から、『プライドと偏見』、邦画『ハウルの動く城』『ふしぎな岬の物語』まで、全18の映画の楽曲が村治さんのギター・ソロや弟の奏一さんとのデュオで奏でられている。
村治さんは今回のリサイタルでも使用予定の、19世紀のヴィンテージ・モデルを含む4台のギターを弾き分けているのだが、その音色の優しく温かく、深く美しいこと。
より豊かに充実した村治さんの演奏力と表現力が実感できる。