1月 横浜港
文/細野晴臣
大晦日の夜は年が明ける前にテレビの音を消して窓を開ける。除夜の鐘に混じって彼方から汽笛の音が聞こえてくるからだ。
毎年そうやって横浜の方に向かって耳を澄ますのだが、最近は聞こえなくなった。あの汽笛は今も続けている筈なのだが、いつから聞こえなくなったのだろう。
都市の音で正月の静けさがなくなったからだと思う。ずっと東京の台町に暮らしているが、横浜港の汽笛が届いていたことが不思議でもある。
人工的な音の中で汽笛ほど好きな響きはない。汽笛は蒸気や空気の音だから、デジタルに終始する音楽環境では再現することは難しく、それだけに憧れが強い。
汽笛の音響装置を手に入れたいという気持ちは日に日に膨れ上がるばかりだ。
いまだかつて「咽び泣く」人間に出会ったことはないが、その表現は船や機関車にこそ用意された言葉に思える。
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細野晴臣(ほその・はるおみ)
音楽家
1947年東京生まれ。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。
公式サイト
www.hosonoharuomi.jp 出典・音響提供/環境省「残したい“日本の音風景100選”」 写真上/アマナイメージズ 写真下/ロイヤルウイング 『家庭画報』2020年1月号掲載。 この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。