「ポップアートとミニマル・アート:絵画空間の実体化」をテーマとした一室では、ロイ・リキテンスタイン作品(左から、壁面の3点)などを展示。ナビゲーター・文 結城昌子ゆうき まさこ/アートディレクター、エッセイスト。著書に名画との楽しいコミュニケーションを提案する『小学館あーとぶっく』シリーズや『原寸美術館・画家の手もとに迫る』など。artand.jp白鳥のいる池周辺を散策しながら美術館へ。途中、現代美術家フランク・ステラの金属を大胆に鋳造した巨大な作品がある。
四季折々に訪ねたい、自然豊かな私のお気に入りの場所のひとつだ。『画家が彫刻を作るとき』という意味深なテーマにひかれてこの秋も訪ねた。
「画家がつくる彫刻」は、彫刻家の彫刻とは違って、最初から立った形の完成形をあたり前のようにイメージしているわけではない。
つまり絵を描く過程で、絵を描くためのヒントを得るためにつくりはじめられ、結果的に平面ではなくなった作品というように考えればよいのかもしれない。
そんなわけでいわゆる彫刻とはひと味違った面白さをもった作品が並んでいる。
彫刻は、空間に立つことがお約束なのだけれど、たとえば岡本太郎の作品《愛》のように、あたかも立ちそうに見えながら、横たわっていることによってかえって、男女が添い寝する姿を強調するかのように見えるものもあって面白い。
岡本太郎 《愛》 1961年 川崎市岡本太郎美術館蔵ピカソやミロなどの作品が並ぶ第1室は、画家がつくった立体という意味ではまだ序の口で、次の部屋に行くと「絵画って何だ?」というテーマをもろに突きつけられる。
哲学的に言えば、絵画とは——
画布の上に絵の具がくっついたものと説明されるけれど、では画布って何だ?絵の具って何だ?という疑問がわいてくる。
私が特に興味をひかれたのは、ロイ・リキテンスタインの絵の具のイメージを板状にした木製彫刻。印刷の網点を拡大したような絵を描くあのポップアートの巨匠の作品だ。
絵の具の筆致をはぎ取って板状にし、それをレイヤー状に重ねた作品。生粋の彫刻家ではつくらない画家ならではの発想にわくわくした。
20世紀の中ごろに、申し合わせたように画家たちが似た地平で立体をつくる。アートは時代がつくるものだとつくづく感じた。
『描く、そして現れる—画家が彫刻を作るとき』
岡本太郎《エクセホモ》1963年 川崎市岡本太郎美術館蔵既成概念にとらわれず20世紀の彫刻表現を広げた、画家がつくる彫刻は、彫刻家がつくる彫刻とどう違うのか。
ピカソや草間彌生ら国内外の25人の画家たちが手がけた絵画と彫刻を見比べながら、その違いからくる特色を鑑賞する。
DIC川村記念美術館〜2019年12月8日まで
休館日:月曜
入館料:一般1300円
ハローダイヤル:050(5541)8600
展示の詳細はこちら>> 表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/永野雅子
『家庭画報』2019年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。