高齢者施設で診療する佐々木さん。若年者とは異なる高齢者の病気の特徴に合う医療が必要
このような高齢化、人口減少の時代が加速しつつあるからこそ、佐々木さんは医療者も患者も市民も行政も、高齢者の医療の目標や提供体制そのものを見直す必要があると強調します。
佐々木さんは2006年、東京大学大学院に在籍し、東大病院で働いていた頃まで「医師の仕事は病気を治すこと、病院は病気を治すところと思っていましたが、
実際には難しい病気で完治しないまま退院したり、外来に来なくなったりする患者さんたちがいて、治せないのがもどかしかった。でも、そういう患者さんがその後どうしているかを知りませんでした」。
そして、在宅医療に出会い、患者の人生に医療者としてどう寄り添うかを深く考えるようになります。
「私が受けた1990年代の医学教育は若年者の病気を治すことを目標としていました。ところが、私たちが経験を積んで一人前になった2010年代には入院も外来も高齢者がずっと多くなりました。これは高齢者に若年者向けの医療をしてきたことも大いに関係していると思います。
慣れない病院暮らしでストレスを溜め、運動を制限されて体の機能を失い、認知症も進んだ、病気はよくなったけれど生活の質は下がってしまった、そんな高齢者が増えました」と佐々木さん。
下の表のように、高齢者と若年者では、病気の特徴や医療の目的は異なります。高齢になると病気の種類によっては完治が難しくなり、いくつかの病気が重なることがあります。
高齢者の病気は若年者とは特徴が異なる
若年者と高齢者では医療ニーズも違う
出典:佐々木 淳さん提供資料「病気と老化の境目がわからなくなり、治すことよりも、これ以上悪くならないようにすることが目標になっていくのです」。
人口構成の変化と医学の進歩、実際に提供されている医療、そして、高齢になっても完治を目指したいという患者のニーズにずれが生じているといえます。
「病気を少しでも治してほしい、痛みを取ってほしい、死なないですむなら死にたくない、という要望に応えて、医師もがんばって治療や延命をしてきました。
しかし、病気が治らなくて、患者がその病気とつきあっていく覚悟を決めたとき、最期が近いことがわかったときに、どうすれば残りの人生を楽しく過ごせるかを教えてほしいといわれた場合に、
求められるのは医療ではなくて、生活のサポートです。その切り替えが医師にもほかの医療スタッフにも必要になっているのです」。
次回は、日本の在宅医療の将来の方向性について、佐々木さんの考えを語っていただきます。