帯や小物で印象に変化をつける着回し術
美術展での装いは、あくまでも作品が主役。きもの姿が作品の邪魔にならないように配慮しながら、3つのポイントで着こなします。まずは、1つ目は作品のテーマに合わせて装う場合。ご覧いただいているエジプト模様の訪問着と帯は、杉山寧先生の作品にエジプトのモチーフがあったため、それに合わせました。全体的にたっぷりと柄が配されているので、色味を抑えて帯締めや帯揚げも品よくあっさりと装いました。
エジプトをテーマにした神秘的な帯。作品の解説の際に、皆さんから歓声が上がりました。
2つ目に心がけていることが、無地感覚のきものを選ぶということです。今回は長期滞在となったため、限られたきものをベースに、帯合わせで印象を七変化!
一番に活躍したのは、母の箪笥の一枚。松葉色の万筋の江戸小紋です。
オリエンタル帯とハロウィンのカボチャの帯飾りでスパイシーに仕上げて。
左から、アフリカの布をパッチワークしたプリミティブな帯にハートの帯留めを効かせて。父の東南アジア土産のサラサの帯は、帯揚げも帯締めもワントーンで。格子柄の帯には、菊の帯留めと赤の帯揚げで愛らしさを。アルパカ柄の帯は、柄のキュートな印象を引き立てるために、帯揚げや帯締めの色を控えめに。こんなふうに一枚のきものを、帯を取り替えながら楽しんでいました(笑)。
最後に3つ目のポイントは、きものから帯までをワントーンにまとめるコーディネートです。母譲りの結城紬にナイジェリアの布で誂えた帯を合わせると、ご覧のとおり現代的な美術館の空間にも溶け込む洋服感覚の装いに。
帯揚げの結び目と草履の鼻緒、そしてネイルに赤を効かせて、大人のトリコロールスタイルの完成です。
美術館へ足を運んでくださった皆さま、この場を借りて心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました! 来月は、いよいよ
連載の最終回。どんな着こなしとなるか、お楽しみにしてください。
一色采子/Saiko Isshiki
日本画家の故・大山忠作氏の長女として東京都に生まれる。毎日をきもので暮らしたお母様のもとで、コーディネートや着こなしのセンスを磨き、現在はファッションのアイテムを取り入れながら独自のスタイルを楽しむ。趣味の日本舞踊や三味線、長唄では名取になるほど、古典芸能への造詣も深い。現在は、福島県にある二本松市大山忠作美術館の名誉館長や二本松市の観光大使も務める。
構成/樺澤貴子