モーツァルト生誕の地であり、『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台、夏に大規模な音楽祭が行われる街──「きよしこの夜」は1818年、ザルツブルクで生まれました。そして11月半ばになると街中でクリスマスマーケットが煌めくウィーン。友好150周年を迎えたオーストリアの2つの街のクリスマスを訪ねました。
日本・オーストリア友好150周年を祝して
ザルツブルク州オーベルンドルフにあるきよしこの夜礼拝堂。この歌が生まれた聖ニコラス教会がかつてこの場所に建っていた。【SALZBURG】ザルツブルク
壊れたオルガンに代り、ギターで誕生した世界一有名な聖歌の物語
「きよしこの夜」は、1818年の12月24日、ザルツブルク近郊オーベルンドルフ村の聖ニコラス教会で生まれました。
作詞は、司祭のヨーゼフ・モール。作曲は、同教会オルガニストで教師のフランツ・クサーバー・グルーバーです。
きよしこの夜礼拝堂内部。調度品などは聖ニコラス教会のものを再利用している。ステンドグラスの肖像は右がグルーバー、左はモール。モールがグルーバーに作曲を依頼したのは、クリスマスイブ当日だと伝えられています。
グルーバーはこの詞に急いでメロディーを与え、その日の晩のミサで、モールのギターに合わせて2人で歌ったのです。
1818年の初演時にモールが弾いたギターはグルーバーの家族に受け継がれ、グルーバーが晩年を過ごしたハラインのきよしこの夜博物館で展示されている。グルーバーが描いたスケッチ。同博物館蔵。その後、教会のオルガン修理に訪れたチロルの職人がこの曲の楽譜を持ち帰ったところ、その頃チロルに多く住んでいた旅歌手の家族たちに伝わり、彼らによって世界中に広まりました。
グルーバーがモールと出会った当時教鞭を執っていた、オーベルンドルフの隣村アルンスドルフの小学校校舎内。教室は元の状態で保存・展示されているうえ、学校は現在も機能している。第一次世界大戦中のクリスマスイブの夜、前線で兵士たちが武器を置いて各国語で歌ったというエピソードもある、平和への祈りに満ちた歌。
当初はポピュラーソングとみなされていましたが、現在では正式な聖歌として、カトリックの総本山、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂のクリスマスミサでも歌われています。
モールの最後の赴任地ワグラインに建てられた墓。後ろに見えるのは、彼が設立した学校。300以上の言語に翻訳され世界中で歌い継がれる平和へのメッセージ
作詞したヨーゼフ・モールによる直筆の楽譜。ザルツブルク博物館蔵。ナポレオン軍の暴力的な占領からようやく解放された人々の心に希望の灯をともした。きよしこのよる
星はひかり
すくいのみ子は
馬(ま)ぶねのなかに
眠りたもう
いとやすく
(訳詞/由木 康)
Stille Nacht! Heilige Nacht!
Alles schläft, einsam wacht
Nur das traute hochheilige Paar.
Holder Knabe im lockigen Haar,
Schlaf in himmlischer Ruh!
Schlaf in himmlischer Ruh!
(ドイツ語歌詩)