——菊地さんのところへは、完全に身一つで行っていたとか。それは菊地さんからの提案で?
「私個人の判断です。自主制作的な感じで始めたもので、予算が集まる確信もありませんでしたし、いつ撮り終わるかも正直あまりわかっていなかったので。それもありますけれども、やっぱり菊地さんと向き合うときに、一人で臨みたいっていう気持ちがどこかにあったんですね。手で作業している人ですから、自分も自分の手で勝負に挑みたいみたいな、どこかそんな気持ちもあったような気がします」
——売れなくなってきているといわれる紙の本、そして手間もかかる手作業。どちらもあまり歓迎されないものになってしまっていると思います。それを今、ドキュメンタリーとして世に出すことについて、お聞かせください。
「あえて時代錯誤的なものを作ろうという意識はあったんですけど、あまり懐古的だというふうには思われたくなくて。どんなにほかのメディアがすたれても、絶対に本だけは生き残ると思うんです。もっとも原始的なメディアですし、今、本が売れなくなっているとはいえ、本来のニーズに近づいていってるだけという気もしていて。なくならないと思います。そんなことを言っていても、実は私、そんなに読書家じゃなかったんですよ。本の魅力に気がついたのは、高校を卒業してからくらい。その後悔が大きいんですよね。もっと早くから本を読んでおけばよかったって。そういう自分に向けて作ったようなところもあるかもしれないです」
菊地さんが装幀家を志すきっかけ、モーリス・ブランショ。彼の『終わりなき対話』を装幀することになり、本作のゴールが見えた。