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音楽の力は本物の共感を生む。長谷川眞理子さん・仲道郁代さんの特別対談

2019.12.13

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いま見直されている、教養としての音楽
ハーバード・東大は音楽で人材を育てる


19世紀半ばにハーバード大学に音楽学科が設立されたのを端緒に、現在ではほぼ全米の総合大学で音楽を教養または専門として学ぶことができます。教養としての音楽への関心が高まる日本の大学も変わろうとしています。

米国の大学では常識、「教養」としての音楽教育


ハーバード大学
©Farrell Grehan/Arcaid /amanaimages


アメリカの多くの大学には音楽学科が設置され、音楽専攻ではない学生でも受講できる音楽科目が幅広く開講されています。リベラルアーツ(一般教養)を身につけることで、後の専門教育の基礎となり優秀な人材の育成に繋がると考えられているのです。

たとえばハーバード大学の教養科目では、革新的といわれた5作品の世界初演について、当時の記事や書簡などを紐解きながら“批評的な音楽の聴き方”を学びます。

さらに学年末には授業内で作曲家に委嘱した曲の“世界初演”を聴き学生自身が当事者体験をするなど、理論と実践が統合された授業となっています。

※参考文献/『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』(菅野恵理子著、アルテス・パブリッシング刊)

アートでつながるさまざまな領域、日本の大学が進化


日本でも音楽・芸術による教育への注目が高まる中、今年東京大学にて諸分野の研究者が芸術家と連携しながら研究・授業・社会連携を行う「芸術創造連携研究機構(ACUT(アキュート))」が創設されました。

春学期「合唱音楽の実践的研究」では教養課程の約100名が、日本古謡『さくらさくら』やモーツァルト『レクイエム』など多言語の歌曲を学びました。

担当の辻 裕久先生(テノール歌手)によれば「自らドイツ語の歌詞内容や古い英語の発音、詩人について調べるなど、学生は知識欲や表現意欲も強い。とにかく音楽を楽しむこと、また楽譜からメッセージを読み取る面白さを知ってほしいですね」。

多彩な曲目にはなんと『犬のおまわりさん』もあり、「もっと犬っぽく!」という先生の要求にこたえて全員が迫真の犬の演技を! 深い探求心と遊び心、実はそれが創造性の源泉なのです。

秋学期「芸術創造性の実践演習」(髙木紀久子先生)では、自然環境と身体の新たな接点をつくることを目的に創作・発表します。

こうした芸術の実践は、予測不能なことも探索的に理解できる身体と感性を育むものと期待されています。

音楽・美術・ダンス……
芸術が学問どうしをつなぐ懸け橋に


芸術が学問どうしをつなぐ懸け橋に

人文社会だけでなく、科学系の学問分野でも、芸術的な感性や思考が求められる時代に。

たとえば医学では、患者に寄り添える感性豊かな医療人・医学研究者の育成や福祉への貢献、工学では建築や設計のためのデザイン思考や芸術的感性の育成が期待されています(同機構の音楽系授業は、かけはし芸術文化振興財団からの寄付により実現)。

ワーグナー、リストの音楽DNAを受け継ぐカタリーナ・ワーグナーさん


リヒャルト・ワーグナーの曾孫であり、バイロイト音楽祭総監督を務めるカタリーナ・ワーグナーさん。彼女が手がけたのは、子どもが楽しめるオペラ。この10年間で約2万人の子どもたちが名作オペラを堪能しました。子どもには少々難解なテーマであっても感情に強く訴えかける音楽の力が彼らの理解を助けるといいます。

「愛、自由、戦争の悲惨さ、子どもは音楽を通じて理解することができます」―カタリーナ・ワーグナーさん


カタリーナ・ワーグナーさん

子ども時代に体験した生の舞台が持つパワー


「音楽には愛情や嫉妬など、大きな感情が込められています。音楽を通じて感情を解き放ってほしいですね」と、ひときわ心を込めて語るカタリーナさん。

もともと音楽的に開かれた環境に育ちましたが、劇場で音楽が持つ壮大な力に触れて目覚めたそうです。

「4歳のとき『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のフィナーレで全員が合唱するシーンを見たときに、音楽と舞台の融合に圧倒されました。ああ! ただただもうすごい!って」。

歌手たちの情感溢れる声、迫力あるオーケストラの生演奏、そして感情を揺さぶるストーリーはオペラならでは。

「たとえば『さまよえるオランダ人』では、恋焦がれていた人が突然目の前に現れる驚きや恋に落ちたときの感情は、子どもたちにも伝わると思います」。

観客席から見たオーケストラと舞台
©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介
観客席からはオーケストラと舞台の両方が見渡せ、生演奏を前に小さな子どもも真剣。曲はドイツ語で歌われますが、日本語のセリフを要所に挿入して物語の理解を手伝います。


そんな思いから「子どものためのワーグナー」を開催し、ドイツ各地の小学校で衣装デザインを公募するなど、子どもの創造力を高める取り組みも行っています。

音楽の中に哲学的な問いを見出す


カタリーナさんはご自身の成長とともに、音楽や物語のより深い精神性や哲学的な問いかけが理解できるようになったそうです。

「『パルジファル』の哲学性、宗教性、愛、権力との闘いなどには魅了されました。ベートーヴェン『フィデリオ』に描かれている自由と権力のせめぎ合いでは、人間はどこにいても自由なのだというメッセージを感じます。子どもたちは、そうした普遍的テーマを音楽から敏感に感じ取るのだと思います。

生演奏を前に小さな子ども
©東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

音楽の力とは、エモーション(感情)そのもの。たとえ楽譜が読めなくても、音を聴いただけでエモーションが解き放たれる。感受性が豊かな子どもには特にそうした音楽体験をさせてあげたいですね」
「子どものためのワーグナー」
「子どものためのワーグナー」が来春も開催されます。演目は『トリスタンとイゾルデ』(バイロイト音楽祭提携公演)。日時は2020年3月28日(土)、29日(日)、4月1日(水)、4日(土)、5日(日)を予定。詳しくは「東京・春・音楽祭」のホームページをご覧ください。 www.tokyo-harusai.com
撮影/ベンジャミン・リー 岡積千可 本誌・大見謝星斗 取材・文/菅野恵理子 取材協力/田口道子、松田暁子、ヤマハ銀座コンサートサロン

『家庭画報』2019年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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