『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』春日太一 聴き手・構成/文藝春秋 1900円映像による娯楽が完全にテレビに移行していた1980年代前半から映画づくりにかかわり、これまで100本を超える映画をプロデュースしてきた奥山和由さん。斜陽期の映画産業で資金集め・製作・宣伝方法を考え、孤軍奮闘してきた。そんな映画に憑かれた男が語る、自身の映画史。
時代の寵児といわれ、数々のヒット作や野心作を生み出した映画プロデューサーが、栄光と挫折と現在を語っているのですが、聴き手が上手いのでしょう、成功作だけでなく、失敗作も観たくなるほど、裏話が面白い本です。
いえばいいとこのお坊ちゃんなのに、学生時代はバンカラで、親のコネに頼らず違う映画会社に入ろうとしたり、プロデューサーになってからも、今までにない資金集めや宣伝方法を考え、自分で道を切り拓いてゆく。そういうところはまさに革命家です。
斜陽の只中にあった映画界を変えていこうと、会社と対立しながらも自分を貫いたのは、社外に尊敬し、目標とする映画人がいたからでしょう。
奥山さんは人の懐に入っていくのが上手いですよね。相手がどう思っていたかわからないけれど(笑)、本を読む限り、嫌がられずに大人物の懐にすーっと入って味方にしてしまう。持って生まれた人たらしで、そういうことが苦手な私には羨ましいというか、これはやろうと思ってできることではないですよ。
たとえば三船敏郎さんに会いに行ったときも、家の前で掃除をしている本人に、“手伝いましょうか”と声をかけるとか。そもそもそこに三船さんがいたというのもすごいことで、やはり運がいい。
三船さんが援助した『海燕ジョーの奇跡』の現場なんて、みんなよくフィリピンから生きて帰って来られたと思うほど無茶苦茶で、会社がゴーサインを出すはずないことを、奥山さんは独断でやっている。これはやや特異なケースかもしれないし、だから叩かれたりもするのだろうけど、でも、いい作品をつくるためにはこういう在り方もありだなと思わせるように、奥山さんにはどこか憎めない愛嬌と、あと、聴き手が書いているように、誠実さがあるんです。
ロバート・デ・ニーロはほとんど友だちだし、憧れていた深作監督や、北野 武さんとの映画づくりを読めば、本人にも圧倒的なパワーや、相手に臆さない強さがあることがわかります。そして記憶力のすごさ。自分が製作に関わった作品以外のことも克明に話していますよね。
『RAMPO』の製作当時の騒動を見て、胡散臭さを感じていたんですけれど、そのイメージが吹き飛ぶくらい熱い人です。本人主演のドラマもつくれそうなこの本を読めば、きっと奥山さんの印象が変わると思います。
© キッチンミノル春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)
単独で21人抜きの真打昇進を果たした、人気・実力ともに若手真打No.1の落語家。新宿末廣亭12月上席夜の部にて、主任を務める。2019年12月16日にDVD BOOK『 春風亭一之輔 十五夜』が発売。 表示価格はすべて税抜きです。
取材・構成・文/塚田恭子
『家庭画報』2020年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。