――出演依頼を断ろうとしたのですか?
「はい。最初、“たぶん自分にはできません”“無理です”と答えて、マネージャーさんと1回喧嘩みたいになりました。身の丈に合ってない気がして怖くて、敵前逃亡です(苦笑)。今は、やったほうがいいと言ってもらってよかった、何事もやってみるものだなと、つくづく思います」
――物語の背景にあるのは、忠臣だったにもかかわらず、源義経を見捨てて逃げた常陸坊海尊が、生き長らえて仙人になったという東北地方の伝説。作品自体にはどんな印象を持っていますか?
「最初に戯曲を読んだときは、正直、よくわかりませんでした。でも紐解いていくと、日本人とは何ぞや?みたいなことを問いかけられているように思えてきて面白い。戦中戦後という激動の時代を描くことで、自分たちの風土みたいなものが浮かび上がってくる作品になるのかなと思います。セリフも舞台美術もシンプルなので、それを役者がどう表現していくかが大きな課題ですね。強い女性たちと対照的に、欲に溺れていく弱い男たちが描かれているところも面白くて、秋元先生が感じていた男女間の性差別への反発の表れなんだろうなと想像しています」
俳優以外では生物学者になりたかったという。「天文学にも惹かれたんですが物理がダメで、生物や人間の体の構造に興味を持ちました」――平埜さんが演じるのは、東京から東北に学童疎開し、おばばや美しいその孫娘の雪乃と出会う安田啓太少年のその後。どう演じたいですか?
「いちばんは、学童疎開している間に空襲で親を亡くして、おばばたちと暮らしてきた啓太を、自分がどこまで現実味を持って生きられるか。僕が出てくる3幕は、少年時代から一気に16年くらい時代が飛んでいたりするので、戯曲には書かれてない年月をどう生きてきたのか、そこにいちばん想像力を使わないといけないなと思っています」
――登場人物たちは皆、厳しい現実を生きる一方で、その身に人々の罪を引き受けてくれるという海尊に救いを求めます。言い伝えや宗教思想が日常生活と密接にかかわっていた風土や時代をどう感じますか?
「面白いなと思いますし、僕はこの舞台で描かれていることは決して遠い話ではないと感じています。今の人たちも“生まれ変わったら何になりたい?”なんて話を、仏教の輪廻とは思いもせず普通にしていますよね。それだけ日本の風土には仏教が根付いているのだろうし、“理屈はわからないけど、そういうものだ”と伝わってきたことが、生活の中にたくさんあるのが日本の文化だと思います。たとえば、僕が小さい頃は、ばあちゃんに教えられて、下の歯が抜けたら屋根の上、上の歯が抜けたら縁の下に投げていましたから」