華やかな舞台の裏では、さまざまなドラマが繰り広げられる
主にオペラが上演される新館のマリインスキー劇場Ⅱにて。舞台セットを整えるスタッフを見守るゲルギエフ。彼が現れるだけで場の空気が締まる。約2か月にわたる白夜祭の期間中は、1日2~3公演以上上演されます。2019年のラインナップを振り返っても、『アイーダ』『スペードの女王』『ラ・バヤデール』など、オペラからバレエまで人気の高い作品が並びました。
ヴェルディ作のオペラ『シモン・ボッカネグラ』のカーテンコールの様子。関係者皆が緊張感から解放され、安堵する瞬間。今回の斬新な演出に客席からは惜しみない拍手が送られた。アンナ・ネトレプコやラン・ランなど世界的アーティストが出演する傍ら、ゲルギエフに見出された若い才能が重要な役にしばしば抜擢されるのも、この芸術祭の特徴の一つです。
現地テレビ局のインタビューに答えるゲルギエフ。ロシアの芸術文化を牽引する彼の一挙手一投足には、常に注目が集まる。出演者たちに聞くと、ゲルギエフは本番数日前に主要キャストの曲を数名に順番に歌わせ、その場の調子で誰が本番を歌うか決める、ということが度々あるそう。
よい舞台を作ろうという熱気がみなぎる舞台裏。刺激的な抜擢法であるうえに、ある意味ではフェアな舞台裏の競争が、長期にわたる白夜祭を中だるみさせることなく盛り上げ、その日その瞬間の最高の舞台が観客を酔わせるのです。
マリインスキー劇場Ⅱは2013年にオープン。モダンな建物の前には運河が流れる。新館のギャラリースペースには、歴代の演目に用いられた衣装が展示されている。コンサートホールとしてのマリインスキー劇場Ⅲ(2006年開館)。二人のソリストが語る巨匠の実像
ユリア・マトーチュキナ(メゾ・ソプラノ)2015年、チャイコフスキー国際コンクール声楽部門優勝。2016年の来日公演で『エフゲニー・オネーギン』のオルガを演じ絶賛された。多数のプロジェクトを抱え大変お忙しいかたなので、ゆっくりと指導を仰ぐことはなかなかできませんが、ひと言ひと言がとても的確で、マエストロが目指す芸術的なコンセプトがすぐに理解できます。
歌手や演奏家に対しては、「色彩豊かであること」を望まれていて、一つの色に染まらず、型にはまらず、表現の幅や柔軟性を追求することを学びました。
イリーナ・チュリロワ(ソプラノ)ノヴォシビルスク国立歌劇場で研鑽を積み、2013年にマリインスキー歌劇場にデビュー。豊かな表現力と官能的な歌声で注目を集める。マエストロ・ゲルギエフにヴェルディの歌い手として見出していただき、私の人生は変わりました。以来、氏との仕事は、他の誰よりも緊張感を伴います。評価に甘んじず、常に成長し続けていかなければなりませんから。
でもこちらの小さな成長や変化も見逃さず、細やかに評価してくれるのです。歌手としても一人の人間としても、これ以上の喜びはありません。
芸術家たちが通う、劇場前の美食レストラン
魚と肉(写真)の2種類のコース料理が人気。ともに1790RUB。マリインスキー劇場Ⅰの目の前にあって、モダンなロシア料理を提供するレストラン「レパ」。10名ほどで利用できる個室もあり、ゲルギエフをはじめ、出演者やスタッフも足繁く通います。
壁に描かれたダンサーの絵が印象的。訪れた著名人が残したサインを眺めるのも楽しい。深夜まで、温かく洗練された料理やワインがいただけるので、アフターシアターにぜひ立ち寄りたい一軒です。
THE REPA
Theatre Square,18/10,St Petersburg, 190068,Russia
営業時間:17時~25時
TEL:+7 812 640-16-16