NHK連続テレビ小説『なつぞら』での存在感ある演技も記憶に新しいところ。2020年に芸能生活50周年を迎える草刈正雄さんは、今なお、いえ、今いっそうの輝きを放っています。光あれば影もまた濃く。貫き通すと決めた役者の道、折々に訪れた大切な出会い。幼少時代から現在に至る道のりを語り尽くします。
「あきらめないでよかった」
今こそ僕の人生を語ろう
厳しかった母。今思えば父親の代わりもしてくれた
「いやあ、『家庭画報』さんにね、こんなふうに呼んでいただける日が来るとは思っていなかったですよ」草刈正雄さんは開口一番、小誌にまつわる思い出を披露してくれました。
それは、定時制高校に通いながら家計を助けるためにアルバイトに明け暮れていた頃。地域を回って本や雑誌を売る、いわゆる訪問販売で生活費を稼いでいた正雄青年。
それは小社の販売会社で、数ある本の中に『家庭画報』がありました。
「最初はどの本もよく売れておもしろかったんですが、門前払いされたり、きついことをいわれることもあるでしょ。そのうち先輩たちとサボることを覚えて、結局は仕事を放り出してしまったわけです。勝手にひどい辞め方をしたのに、こうして縁がつながってまた巡り合うとは。不思議なものです」
経済的には恵まれなかった暮らし、ままならない仕事。草刈さんにとっては苦い思い出のひとこまかもしれません。
それでも懐かしむように記憶の糸をたぐり寄せながら、話はさらに幼少期へと遡ります。