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本木雅弘さん、細川護光さんをお迎えした新年の茶事。奈良国立博物館「八窓庵」を舞台に

2020.01.20

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【藤田美術館の新たな船出】新年の茶事 第1回(全2回) 2022年のリニューアルオープンに向けて現在休館中の藤田美術館。その所蔵品を鑑賞する不定期連載、今回は茶会仕立てでお届けします。お客さまは2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で斎藤道三を演じる本木雅弘さんと、陶芸家の細川護光さん。ドラマの世界になぞらえて戦国時代の茶の湯をよみがえらせ、凜とした男五人衆が集いました。
本木さん

「明るい露地から仄暗い茶室へ。別世界へと飛び入る気持ちです」─本木さん
にじり口でつくばって戸を開け、扇子を置いて一礼。本木さん着用のきものは、亡き義母・樹木希林さんが生前求めた草木染め・縫い締め絞りの反物を、本木さん用に仕立てたもの。この日初めて袖を通した。

茶会──
かつての武将のように。茶室に向かう期待と緊張



2019年春に「国宝の殿堂 藤田美術館展」が開催されるなど、藤田美術館とはご縁が深い奈良国立博物館。その広々とした敷地の一角にたたずむ茅葺き屋根の草庵茶室「八窓庵」は、もともと興福寺塔頭・大乗院庭内(現在の奈良ホテル敷地)にあったもので、1892年にこの地へ移されました。

茶室「八窓庵」

奈良国立博物館の裏手に広がる庭園に、茶室「八窓庵」はある。江戸中期に建てられたもので、古田織部好みといわれ、開口部が多いのが特徴だ。

興福寺といえば、2018年秋の中金堂落慶法要の際に武者小路千家第十五代家元後嗣・千 宗屋さんが5日間連続で献茶を務められ、藤田美術館が席主となり慶讃茶会を開いたなじみ深い場所。

さまざまな縁がつながったこの地に久々に、藤田美術館館長の藤田 清さん、千 宗屋さん、茶道具商の谷松屋戸田商店副社長の戸田貴士さんが集まり、スペシャルな茶会を開きました。

本木さん、細川さん

奈良国立博物館の敷地内にある茶室「八窓庵」が今回の茶席の舞台。茶会は茶室に入る前から始まっています。露地のつくばいを使い、屋根に苔むす腰掛待合でしばし頃合いを待つお2人。心をととのえ、石橋を渡り、いざ、茶室へと向かいます。
お客さま
右:本木雅弘さん(俳優) 1965年生まれ。82年「シブがき隊」のメンバーとして歌手デビュー。88年解散後、俳優活動を開始。『シコふんじゃった。』『おくりびと』『日本のいちばん長い日』など数々の秀作映画に出演し、受賞多数。95年内田也哉子さんと結婚、二男一女の父。
左:細川護光さん(陶芸家) 1972年生まれ。中学まで熊本で過ごす。大学在学中は一時期、白洲正子邸に下宿したこともあり、美意識を養う。23歳で伊賀の陶芸家・福森雅武氏に師事、陶芸の道に進み現在熊本で作陶。永青文庫理事。父は元首相の細川護煕氏、妻は料理家の細川亜衣さん。


お招きしたのは2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』に斎藤道三役で出演される本木雅弘さん。主役の明智光秀の最初の主君という重要な役どころです。

もう1人のゲストは陶芸家の細川護光さん。肥後藩主細川家の家系を遡れば細川忠興につながり、忠興の妻・玉子(のちのガラシャ)は明智光秀の娘にあたるというわけで、お2人は浅からぬ縁を共有する間柄。

茶会のテーマは、このお2人にちなんで「戦国茶会」となりました。

道具と所作のみが語る、対話の時間が始まる


お2人をサポートする形で戸田さんが末客に入り、席入がすんでにじり口の戸を音を立てて閉めると、亭主の千さんが点前座、藤田さんが後見の座につき、茶会がスタートしました。

男五人衆

「茶を通した武将の交歓を想像してみるのは楽しいものですね」─細川さん
四畳台目(よじょうだいめ)の茶室に男五人衆がうち揃った光景は、戦国大名の茶の湯もかくやと思わせる凜々しさ。濃茶が点つまでは静寂が場を包む。


男性5人が袴や十徳姿で居並ぶさまは、男女が集う大寄せ茶会の華やかさとは一線を画した、凜々しい風情が漂います。まさに、明日の命さえ知れぬ戦国大名たちが一期一会の覚悟を胸に分かち合う、濃密な茶のひとときを彷彿させる光景です。

床の間には精緻に描かれた唐絵の小禽図(しょうきんず)、首の細い古銅の花入と青磁の香合が添えられています。

釜の湯のたぎる音だけが聞こえる静寂の中、亭主の所作に全員が意識を集中させて一座が一体に。湯を何度かに分けて注ぎ、少しずつ練るごとに抹茶の緑色がつややかさを増していく様子が薄暗い茶室の中でも鮮やかに目に映ります。

濃茶が練り上がり、茶碗が天目台にのせられて本木さんの前に出されました。ふつう、茶碗はそのまま畳に置かれるものですが、今回は勝手が違いました。

濃茶を服する本木さん

濃茶を服する本木さん。千 利休登場より前の戦国時代の茶の湯をイメージした今回の茶席。天目茶碗は天目台にのせて供され、一口目だけは台ごと手に取って飲む。

「天目台が添えられた茶碗でお茶をいただくのは初めてです」と本木さん。

「戦国大名にゆかりのあるお2人にちなんだ道具組みを考えてみました。斎藤道三が生きた時代というのは、千 利休が活躍する以前です。その頃の茶の湯は唐物、つまり中国からの舶来品を珍重しました。天目茶碗も輸入されましたが、のちにそれを写して美濃で焼かれたのが今お出しした白天目茶碗です。道三が“美濃の蝮まむし”と称されたことに寄せました」と藤田さん。

「天目は高貴な道具でしたから、台をつけて大切に扱ったのです」という千さんの説明に、なるほどと合点がいった本木さん。徐々に緊張がほぐれ、道具談議が始まりました。
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