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本木雅弘さん、細川護光さんをお迎えした新年の茶事。奈良国立博物館「八窓庵」を舞台に

2020.01.20

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藤田さんが、練り上がった濃茶の白天目茶碗を天目台にのせて本木さんの膝前へすすめる

藤田さんが、練り上がった濃茶の白天目茶碗を天目台にのせて本木さんの膝前へすすめる。

次第に解きほぐれ緊張から愉しさへと


道三の役どころやドラマの時代背景をしっかりと学んでいる本木さん。当時の茶の湯にも興味を持ち、今回の茶会を楽しみにいらしたとか。


本木 元禄年間に書かれた『古今茶道全書』の中で、斎藤道三は本拠地の岐阜城の麓に数寄屋を建てたとあるそうです。そして不住庵梅雪(ふじゅうあんばいせつ)という茶人を何度も招いて茶を学んだとか。

 梅雪は、利休の二世代前の師匠であり、侘び茶の祖である珠光(しゅこう)の弟子筋だったそうですね。残念ながら道三ゆかりの道具というのは伝世していませんが、利休以前の、まだ唐物の影響が強い茶に親しんでいたことでしょう。

本木 白天目は、いわゆるお茶の茶碗としてはだいぶ華奢ですよね?

細川 美濃焼は陶器ですから、本来はもっと分厚いものが多いですが、これはなるべく中国の天目に似せようとして作られ、薄づくりですね。一種のモダンさと緊張感もあります。

白天目茶碗の高台を一心に見つめる細川さん

白天目茶碗の高台を一心に見つめる細川さん。時代を経たものが持つ力を感じる。

 中国の天目は黒いのですが、日本では茶の緑色がより映えるようにと白釉をかけたのでしょう。模倣から始まったものが、だんだん日本のオリジナルになっていくわけです。

本木 茶入も、中国渡来ですか?

藤田 そうです。もともとは薬味や調味料を入れた小壺だったものが、日本で茶入として使われたといわれています。銘の「敷津(しきつ)」とは現在の大阪にあった敷津の浦のことで、和歌に詠まれる風光明媚な海辺でした。大阪は私どもの美術館があるところですし。

戸田 口が広くて平べったいこうした茶入を「大海(たいかい)茶入」というのですが、その「海」にかけて、また釉薬の流れが美しいところから、小堀遠州がこの銘をつけたといわれています。

本木 銘にもさまざまなメッセージが込められているのですね。さきほどいただいたお菓子、あれは?

藤田 「仁の風」という銘で、中国の霊獣である麒麟が、仁政が敷かれているときに姿を現して五色の気を吐くという伝説を基にしています。

本木 麒麟……なるほど! 大河ドラマのタイトルにちなんでいるのですね。そのお心遣いが嬉しいなあ。

天猫姥口釜(てんみょううばくちがま)

天猫姥口釜(てんみょううばくちがま)(室町時代)。口がややめり込んだ形を、歯のない姥(老女)の口に見立ててこの名がある。

戸田 道具や菓子など、いろんなところにヒントが隠されている、それが茶の湯の面白さですね。ちなみに床の間に飾った青磁の香合、実は分銅の形をしているのですが……。

藤田 道三は油売りから立身出世したという説もありますよね。商人が使うものといえば秤と分銅ですから。

本木 そういうことですか! 道具組みはじつに奥深いですね。

四畳台目の茶室に膝突き合わせ、一碗を皆で回し飲む濃茶の親密さの中、時間はゆっくりと流れていきます。

道具拝見

茶入のほか、茶会に使わなかった候補の茶碗も拝見に出された。ふだんは美術館のケースに収められている逸品に手を触れて愛でる至福のひととき。

道具拝見で最後に明かされるテーマ


濃茶を飲み終わり、道具が本木さんの前に拝見に出されました。先ほど説明のあった茶入の釉薬をじっくりと観察し、ふとその下の堆朱盆(ついしゅぼん)に目を向けると、そこにはなんと麒麟の姿が彫刻されているではありませんか。

紅花緑葉(こうか りょくよう)丸盆

唐物茶入をのせた「紅花緑葉(こうか りょくよう)丸盆」は明時代の作。朱、緑、黄の漆を厚く塗り重ね、中央に朱の麒麟を堆朱の技法で彫り出している。

「濃茶より先にお出しする主菓子でなんとなく麒麟というテーマを匂わせ、最後の道具拝見に出たお盆で答え合わせ。茶会の趣旨をお客さまにわかっていただけたときは、よかったーと思う」と語る藤田さん。

唐物大海茶入 銘「敷津」(宋〜元時代)に、武野紹鷗作象牙溜塗茶杓(室町時代)を添える

「茶会の趣向にお客さまが気づかれるかどうかも醍醐味なのです」─戸田さん
唐物大海茶入 銘「敷津」(宋〜元時代)に、武野紹鷗作象牙溜塗茶杓(室町時代)を添える。茶杓は中国では象牙が主流で、利休以降、高価な象牙に代えて竹で作るようになった。


「気づかれずに終わってしまう茶会も往々にしてあるけどね」との戸田さんの言葉に一同大笑い。

茶会の準備段階で候補として用意された他の茶碗も並べて、さらに談議は続きます。

細川さんは陶芸家だけあって、茶会で一番に目がいくのは茶碗だとか。この世に十数碗しかないという伯庵(はくあん)茶碗に触れ、「ガラスケース越しにしか見ていなかった茶碗を実際に手に取り、改めてよさを実感しました」。

本木さんは最後に「道三ゆかりの地場の力を焼物から与えてもらおう」と、美濃の菊花天目茶碗を間近に拝見。

菊花天目茶碗を手にする本木さん

濃茶の後に、菊花天目茶碗を手にする本木さん。

「戦に明け暮れた武将たちの手から手へと譲渡され、多くの所有者を経て現代まで生き残った茶道具をこうして拝見すると、その長旅をねぎらいたい気持ちになりますね。光秀や道三も踏みしめたであろう土や、風の息吹までが感じられるようで感慨もひとしおです。今日はお招きいただき、貴重な機会をありがとうございました」
撮影/小野祐次 着付け(本木さん、細川さん)/石田節子 取材・文/松原麻理 構成/安藤菜穂子

『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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