二人が訪れたのは常に時代を先取りした新味のある花が見つかるQ-cafs。社長の松橋佳恵さんは全国を飛び回りブームを仕掛ける。その美的感覚を頼りにするフローリストも多い。パリのトップフローリストが驚嘆した
麗しき「ニッポン」の花
午前4時、外はまだ暗闇でしたが、世田谷市場にある仲卸「Q-cafs(キューカフス)」に、並木さんの案内で、オドラントの二人が花選びに訪れました。
二人の心をとらえた花は? どんな花合わせになるの? 並木さんがこの春おすすめする最新花とともにご紹介します。
【バラ】
切り花には、独特の花形や香りといったバラ本来の魅力をそのまま生かせない制約があります。それは輸送や花持ちなど、商品としての側面があるから。ここにあるバラたちもそんな困難を乗り越えて生まれた、逸品揃いです。右・硬質でシックな色。咲くにつれ花弁が外側に巻き込まれ、見事な花顔を見せる「ギブイットオール」。中・人気育種家、木村卓功氏が2013年作出したガーデンローズを切り花化した「パリス」。ローズとミルラの香りがします。左・はかなげに咲きほころび上品に香る、白バラ「サーシャ」と薄紫色の「リベルラ」は栽培が難しくていったん市場から姿を消しましたが、並木さんが若手のバラ生産者に託して復活させました。最初に二人が口を揃えて「C’est magnifique!(すばらしい!)」と驚いたのは、花の完璧な美しさについて。それは単なる美しさだけでなく、花弁はもちろん、茎や葉にも傷がない完成度の高さ、パーフェクトな状態ということ。実はこれ、ヨーロッパでは“奇跡”のレベルだそう。
日本の生産者は傷がついた花が売れないことを知っています。だから花によってはつぼみの状態で摘み取り、無理なく少数で束ね、梱包を工夫して慎重に輸送します。
私たちにとって傷がないことは当たり前かもしれませんが、実は大変な努力の上で実現していることなのです。
【トルコギキョウ】
とにかく大輪。薄くて繊細な花弁が幾重にも広がるゴージャスさは圧巻です。加えて1本に3~5個も大きな花をつけるトルコギキョウは、花業界でなくてはならない存在で、花持ちのよさも大きなセールスポイントです。切ってからの花は色づかないのでグリーンのままのつぼみもアクセント。右から「ジュリアスライトピンク」、「ボヤージュマスカット」、「セレブクイーン」。一方で繊細で豊かな花弁、絶妙な色や形といったトレンディな新種が次々と現れるのは、育種家や生産者の尽力だけでなく、実は市場の仲買人やフローリストのプロデュース力が絶大だから。
日本中の生産者を巡り「こんな形があったら」「こんなフリルだったら」と具体的な要望を伝えたり、流通の現場に招いて買い手のニーズにじかに触れる機会を設けたりしています。
そうした努力が少しずつ実を結び新しい花が誕生してブームに。「作出する」「生産する」「売る」「あしらう」それぞれの専門分野を超えて集結した力が「ニッポンクオリティ」を生むのです。
【チューリップ】
誰もが絵に描いたことがあるチューリップ。同じ花とは思えない個性的な花弁の多彩さにご注目ください。右からオウムの羽のような「スーパーパロット」、先端のフリンジがエレガントな「クイーンズランド」、小ぶりで幾重にも重なる花弁がころんとして愛らしい「フラッシュポイント」。最近の傾向としては、日常に寄り添うような小花や葉ものの人気が復活しています。でも王道はやはり大輪化した主役花。オドラントの二人はトルコギキョウ、ラナンキュラス、バラを選びあしらいました。
ニッポンだからこそ出会える美しい花たち。二人が発見した魅力を確かめにフラワーショップに出向いてみませんか?
案内:並木容子(なみき ようこ)東京・吉祥寺でフラワーショップ&スクール「ジェンテ」を主宰して25年目を迎える。ナチュラルテーストのブーケに定評がある。全国の生産者と交流があり、花のセレクトショップというべきスペシャルな花揃えが人気。2015年から本誌の表紙を担当。
http://www.gente.jp 協力/並木容子〈ジェンテ〉 撮影/鈴木一彦 西山 航 取材・文/井伊左千穂 協力/市川バラ園 久保田邸(茶室) 根木葉子 Q-cafs
『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。