——「小説が出たとき、タナダさんご自身で映画化されないのかな?と思っていた」とおっしゃっていた蒼井さん。蒼井さんが感じた原作の魅力は?
蒼井:人が同じ角度ですれ違っていくんですよね。文章を追いながら、どんどん頭の中でスーッと線が通っていく感じというか。図式を見ているような感覚になるんです。いろいろなことが起きているんだけれども、見えてくる図式はいたってシンプルというのが、ものすごくタナダさんらしくて最高だなと思って。それで映画化されるんだろうなと思ったら、全然予定がないって(笑)。
タナダ:「映画化しないの?」って言われたときに、「誰ができるんだろう?」って言った覚えがある(笑)。哲雄役もですけど、(園子役の)女優さんにかかってくる負担もとても大きい作品なので、誰ができるのかなぁと。30代で想定していたから。でも、(当時の蒼井さんは)20代前半だったので、「蒼井さんが30代だったら」っていうのは、喉もとで止めておいて、「誰ができるんだろう」って当時言った覚えがあります。
——蒼井さんが30代になって、来るべき時が来た、と。
タナダ:世の中的にも、私が小説を書いた頃はまだラブドールの認知度も低くて。でも、2017年にオリエント工業(ラブドール製造会社)の展示会が渋谷で開かれたときに、30分待ちくらいの行列になっていたんです。行ったときに何に一番驚いたかって、半分以上が女性のお客さまで。それを見たときに、時代は変わったな、今だなと。そう思ったところで、「あれ? (蒼井さんが)30代になってる」と気づいて(笑)。断られるかなと思ったんですけど、最初に蒼井さんに聞いてみたいなと思って聞いたら、やるって言ってくれたんで、逆にびっくりしました。
蒼井:私は間に合うんだ、って思いました。
タナダ:間に合うどころか、30代がよかったから。
蒼井:もう園子の年齢は過ぎた感覚が。だいぶ前に小説が発表されていたから。え? いける? あ、いける。じゃあ、やるって。
タナダ:そもそも哲雄も園子も30代がメインの設定だったから。
「私が演じる園子は、優しくて気立てのいい女性ですが、タナダ節が入っていて、けっこう大胆なところがあるんです」と蒼井さん。