タナダさんいわく、「儚さの中にある人間的な強さや弱さなど、蒼井さんはこれ以上ないバランスで園子を血の通った人物にしてくれた」。——食卓を挟み、哲雄と園子が向き合うシーンが印象的でした。
タナダ:難しかったです。撮影現場では芝居が素晴らしいので、なんの問題もなかったんですけど、お客さまに伝えるとなったときに、あの深刻な話をしている中でのちょっとした心情の変化というか……。それぞれに自分の主張しているんだけど、ちょっとだけ滑稽に見えたり、でも深刻な話をしていたり、話すことによってお互いの矛盾が露呈したり。人間味と、深刻になっていくみたいなところのバランスをお客さまに伝えるためには、どうしたらいいかと。音楽の入れどころも、どういう曲調で、どのタイミングで、どういうものを入れるのかっていう。なんにも入れないっていうのはあまりに不親切だなと思って。どう見たらいいか迷っちゃうかもしれないから。ここはちょっと肩の力を抜いていいんですよ、ここからはちょっと深刻になりますよ、みたいなところをどう仕上げでやっていくのかをすごく悩みました。現場のお芝居を最大限生かすには、どう仕上げたらいいんだろうって。
——思いのほかポップな音楽が入ってきて、思わず笑ってしまったところも。
タナダ:よかった。狙いです。全部深刻に観られるのも困るなと思って。
——長いシーンでしたが、お芝居するほうとしては、やはり台本どおりに進めれば大丈夫だ、と。
蒼井:タナダさんの脚本の面白さというか……。あのシーンがタナダ組の醍醐味なんですけど、『百万円と苦虫女』のときも、同じように森山未來さんと机を挟んで長い会話のシーンがあったんです。ジャグリングしてるみたいな感じで、音になってしている会話と、机の下っていうか腹のさぐり合いの会話とが同時進行で。相手がしゃべってる声と隠してる声、両方でやりとりするんです。台本どおりにやっていたら、隠してる声が聞こえてくるっていう感じで。「あ〜タナダ組に戻ってきたな」って実感しました。
タナダユキ/Yuki Tanada 蒼井 優/Yu Aoi
タナダユキ/Yuki Tanada映画監督・脚本家・小説家
1975年生まれ、福岡県出身。2001年、脚本・出演も兼ねた初監督作『モル』で第23回PFFアワードグラプリ及びブリリアント賞を受賞。映画のほか、テレビドラマや配信ドラマ、CMの演出も手がける。近年の主な監督・演出作に、映画『ロマンス』、『お父さんと伊藤さん』、ドラマ10『昭和元禄落語心中』、配信ドラマ『東京女子図鑑』などがある。
蒼井 優/Yu Aoi俳優
1985年8月17日生まれ、福岡県出身。99年にミュージカル『アニー』で舞台デビュー。2001年には、『リリイ・シュシュのすべて』のヒロイン役で映画デビューを果たす。アニメーション映画などへの声の出演も多い。近年の主な映画出演作は、『彼女がその名を知らない鳥たち』、『斬、』、『長いお別れ』、『海獣の子供』(声の出演)、『ある船頭の話』、『宮本から君へ』など。
『ロマンスドール』
原作:タナダユキ『ロマンスドール』(角川文庫刊)
脚本・監督:タナダユキ
出演:高橋一生 蒼井 優
浜野謙太 三浦透子 大倉孝二 ピエール瀧
渡辺えり きたろう
配給:KADOKAWA
1月24日(金)より全国ロードショー
公式サイト
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