衝撃をともに
「飽きないでずっと惹き込まれたまま、びっくりして終わる。そういう舞台だと思います。その衝撃を、ぜひ我々と一緒に味わってほしいですね」
そう語るのはミュージカル『サンセット大通り』で主役のノーマを演じる濱田めぐみさん。圧巻の歌唱力と演技力で人々を虜にしている濱田さんは、舞台の外でも人の耳を惹きつける、キラキラと透き通る声の持ち主だ。
「歌っていると元気になる」と語る、かつての劇団四季の看板女優は、今やミュージカル界全体をけん引するスターとなって数多くのミュージカルで主演を務めている。
『サンセット大通り』を初めて見た時のノーマの印象は、「近づくと厄介ごとに巻き込まれそうな、怖い女性。まさか自分が演じることになるとは夢にも思いませんでした」と笑う濱田さん。
「2015年に初めてノーマを演じさせてもらったのですが、やはりすごく難しい役でした。歌詞の一語一語、全てが意味深ですし、とにかく掴みどころがない。『人』というより『女性という性を持った生き物』です」
壮大なセット、噛みごたえのある脚本で、演者の力が試される
ノーマはかつてサイレント映画で一世を風靡した大女優。執事で元旦那のマックスと共に、ハリウッドはサンセット大通り沿いの大豪邸に住んでいる。そこに借金取りに追われた脚本家のジョーが逃げ込んできた。ノーマは自らのために書き上げた脚本『サロメ』の手直しをジョーに頼んで……、というストーリー。
ビリー・ワイルダー監督による名作映画を、『オペラ座の怪人』などで知られる「現代のモーツァルト」アンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化した作品だ。ロンドンやブロードウェイで上演され、1995年にはアメリカ演劇界で最も権威のあるトニー賞 最優秀ミュージカル作品賞を含めた7部門同時受賞で話題を呼んだ。
日本での上演がかなったのは2012年。2015年の再演を経て、2020年はファンが待ち望んだ再々演となる。日本への上陸が難しかったのは、ひとつに舞台となる豪邸のセットの壮大さ、もうひとつにはキャスティングの難しさがあった。特に主演のノーマは『オペラ座の怪人』のファントムを思わせる鬼気迫る役柄。
「近づきたくないと同時に、なんだか放っておけないとも思わせる、面倒な女性です。といって、同情すれば付け込まれますしね(笑)。だから今回はノーマに平身低頭して、役に臨もうと思っています。その他の役どころも、みんなキャラが濃くて立っています。限られた登場人物たちの間で繰り広げられる、緻密で生々しい人間関係。一瞬たりとも気が抜けません。でもその分面白い。見るたびに新たな発見があり、自分ならどうしただろうと考えさせられる。家庭画報読者の方にも好まれる世界観ではないでしょうか」と話に熱がこもる濱田さん。
ロイド=ウェバーの傑作、待ち望まれた国内再々演
ノーマ役を濱田さんとW主演で務めるのは、2012年の日本初演からノーマを演じてきた安蘭けいさん。ノーマの主演映画の脚本を書くよう命じられる売れない脚本家のジョー・ギリスは、濱田さんとペアで演じる平方元基さん、安蘭けいさんとペアの松下優也さんと、色の違う役者さんが揃う。演出は濃密な人間ドラマを描くことで定評のある鈴木裕美さんだ。
「裕美さんは『ドS』ですよ」と真顔になる濱田さんは、こうも付け足す。「ジョーと映写機を見る場面があるのです。かつての栄光を懐かしみつつ、若いジョーにほのかな恋心を抱きつつ……、ノーマにとってはものすごく『痛い』場面。そこで裕美さんは敢えて女優の顔を客席に向けるのです。演じる側としてはいたたまれない、見せたくない表情を晒されるのですが、お客さまにはその演出で、ノーマの痛みが伝わるんですよね」
アンドリュー・ロイド=ウェバーは『オペラ座の怪人』のほかにも『キャッツ』『エビータ』『ジーザス・クライスト・スーパースター』といった数々の名作ミュージカルを書き上げている。
「なかでもこの『サンセット大通り』は傑作だと思います。音楽が始まった瞬間に、劇場の空気が一気に色づく。ロイド=ウェバーのエッセンス、質感が、吸う息から身体に満ちてくるのです」
濱田めぐみさんのお話の続きを直に聞ける講座が開催
小社が運営するカルチャースクール「セブンアカデミー」では、この『サンセット大通り』の舞台鑑賞券と、濱田めぐみさんの講演会がセットになった講座を、このほど開催する。
「濱田めぐみさんを講師に」という、かねてからのセブンアカデミーのラブコールが、ようやく叶った形だ。舞台を離れての講演会は「めったにない」と語る濱田さん。しかし自身のラジオ番組などで鍛えられた話術は、その美声と熱量も相まって、聞く者を全く飽きさせない。
「濱めぐ」ファン、ミュージカルファンはもちろんのこと、そうでない方にも強くオススメしたいこの機会。どうかお見逃しなく。