藤野幸信さん 365日の贈り花ダイアリー 「フルール トレモロ」オーナー 藤野幸信さんが手がけたブーケやアレンジメントで綴る365日の花日記。贈り花のある、素敵な暮らしのヒントをお届けします。
記事一覧はこちら 4月13日の贈り花
源氏物語の一節を思い浮かべてブーケを束ねる
4月9日に宮崎県児湯郡の尾鈴から届いた青く染め上げた
スイートピー そらいろを紹介しましたが、そのときグレーに染められたスイートピーも一緒に届きました。
まだ品種名がついておらず、ただグレーと仮に名づけられたスイートピーは、澄み渡る青空のようなそらいろに対し、薄曇りの空を連想させる色だと感じました。それで思い出したのが、『源氏物語』第19帖「薄雲」の和歌です。
「入り日さす峰にたなびく薄雲はもの思ふ袖に色やまがへる」
これは光源氏が、亡くなった藤壺の宮への悲しみの気持ちを詠んだものです。「黄昏の峰にたなびく薄雲の色は、自分が着ている喪服の袖の色のようだ。きっとあの薄雲も藤壺の宮の死を悼んでくれているのだろうか」と解釈されています。
このなかの「黄昏にたなびく薄雲」がなぜだかとても心に残っていて、今回届いたグレーのスイートピーを見て、このシーンを花で表現してみたいと思いました。
スイートピーのグレーにキルタンサスの淡いアプリコット色を合わせて束ね、北海道産のキイチゴの葉ベビーハンズをあしらって仕上げてみました。イメージどおりにできるだろうかとじつは半信半疑で試してみたのですが、グレーの花色がとてもきれいに映るのを眺めて満足な気持ちになりました。
珍しい花や花色に出会ったときに浮かぶインスピレーションは、できるだけすぐに花で表現するようにしています。それを重ねていくことで自分の感性が磨かれるのではないかと思うからです。このブーケに薄雲と名づけ、花を作ってくれた「JA尾鈴」に贈りました。
生産者さんも自分が作った花がどのように使われるのか知りたいと思うので、「こんなに素敵にできましたよ!」という報告を兼ねた贈り花です。これからも新しい染めのスイートピーが誕生しそうで、ワクワクした気持ちになります。
ちなみにこのグレーに染めたスイートピーは「ハスキー」という名前に決まったそうです。
【使用花材】スイートピー ハスキー(染め)
キルタンサス
キイチゴ ベビーハンズ
贈り花のヒントブーケやアレンジを作るとき、ナチュラルな雰囲気に仕上げるのに欠かせないのがグリーン素材、いわゆる葉ものです。私がよく使う葉ものの一つにキイチゴの葉があり、フランボワーズもキイチゴの1種です。
今回使用したベビーハンズもキイチゴの葉で、北海道の生産者さんがカジイチゴの小葉を選抜して作りだした品種です。従来のキイチゴの葉に比べるとサイズがぐっと小さく、かわいらしい印象で、小さなブーケやアレンジにも利用できます。
葉もののニーズは年々高まっていて、新しい種類も出回るので、花屋さんでこまめにチェックしてみてください。新登場の葉ものを加えるだけで、ブーケやアレンジの印象も変わるので、上手に利用するとよいと思います。
下の写真をスワイプしてご覧ください。
藤野幸信/Yukinobu Fujino
広島駅からほど近い段原の骨董通りにある「fleurs trémolo」(フルール トレモロ)オーナー。広島大学大学院理学研究科生物科学専攻を終了後、花の道に進んだ異色の経歴。感動する花束を多くの人に届けたいという思いから、市場からだけでなく自ら生産者情報を入手してお気に入りの花を集める。何種類もの花を使ったブーケは、エレガントでナチュラル。著書
『大切な人への贈り花』も好評。
https://www.fleurs-tremolo.com 『人気フローリストが教える フラワーアレンジのデザイン&ヒント78 大切な人への贈り花』
誕生日、結婚記念日、ウエディングなど、78例のブーケ&アレンジメントを色別に掲載したオールカラーの大判の単行本。色別花図鑑コラムや全国の生産者データなどお役立ち情報やインデックスも充実。大切な人へ花を贈る際のヒントが満載です。