絶妙な火入れが、星付きレストランの実力を物語る
「シャラン産鴨のグリル、蕪と柿のソテー添え」。そして私が感動したのが、この「シャラン産鴨のグリル、蕪と柿のソテー添え」。鴨肉って、こんなに柔らかかったっけ?と驚いたのと同時に、その旨みが口中に広がり、普段これだけお肉をいただいたら満腹になってしまう私が、もう一皿いけてしまうと思ったほど。
「鴨料理は素材の良し悪しが命。名店といわれるレストランがこぞって使用する生産者さんのものを仕入れています。素材の素晴らしさをそのまま提供するだけ」と謙遜する神崎シェフですが、その火入れの絶妙さに、世界屈指の名店で腕を振るった経験が生かされています。
そして、添えられた淡泊な蕪と柿の甘みの味わいのコンビネーションも抜群で、女性でもさらりと食べられます。
甘さ控えめで口あたりの優しいデザートは、前菜、メインとたっぷり食べた後でもペロリ。マルセロさん行きつけのジェラート屋さんで頼んだジェラートのココナッツ、カフェ、ピスタチオの組み合わせが、あまりにマッチしていたため、その味をガストロノミーのデザートのテクニックで表現したいと思ったそう。その瞬間のひらめきこそ、マルセロさんのクリエーションの原動力。口福体験の締めくくりは、マルセロさんの繊細なデザートで
最後に出していただいたのが、シェフパティシエ、マルセロさんが作るデザート「ココ、カフェ、ピスタッシュ」。ココナッツムースとカフェアイスクリームにクラッシュしたピスタチオを散らし、それぞれのエスムーマソースを重ねています。
見た目のとおりふわりとした食感で、口の中で消えるように溶けていく、幻想的な味わい。砂糖控えめで、甘いものが苦手な方にも大好評だそう。
ワインだけでなく日本酒も揃えるなど、ユニークで幅の広いお酒のセレクトもVIRTUSの個性。フランスで行われる日本酒コンクール「Kura Master」の審査員も務める、ソムリエのジュリアンさんは、ワインの幅広い知識はもちろん、日本酒の知識も豊富。食後にサーブされたのは、両手でも抱えるのが大変なほど大きなボトルに入ったポルト酒。美味しさはもちろんのこと、そんなプレゼンテーションも楽しい。ワインのセレクトもヴィルチュス流
ヴィルチュスに訪れたなら、世界からセレクトしされたワインやお酒とのマリアージュを楽しむ体験も欠かせません。休みになるとフランス国内をはじめ、ヨーロッパ各地を飛び回っているというソムリエのジュリアンさんが、ヴィルチュスならではの提案をしてくれます。料理によっては日本酒をセレクトすることも。
「以前はほとんどがフランス人のお客さまでしたが、星を取ってから、日本からのお客さまの来店がぐっと増えました。知っていただく機会になりとても嬉しいです。ミシュランの星の影響の大きさを感じる同時に、それにふさわしい店でなくてはならないという緊張感も感じます」星付きレストランながら、気軽に入れる値段設定も嬉しい
1つ星レストランというと、ハードルが高いと思いがちですが、ヴィルチュスでは、前菜・メイン・デザートの3皿を堪能できるランチメニュー「Formule Découverte Déjeuner」が39€、ランチ&ディナーでも提供している同店の魅力を存分に満喫する「Menu Dégustation」がアミューズ1皿、前菜2皿、メイン2皿、デザート2皿で85€と、良心的なプライス設定も嬉しい限り!(2020年2月現在)
「とにかく、お客さまにはお腹をしっかり満たしていただきたい。なんだか物足りなかったから、ケバブ食べちゃおうかな、なんて悲しすぎますから(笑)。かといって食べきれないほどの過剰さもダメ」。
パリでお腹も心も満たすアドレスをお探しなら、ぜひ素敵な2人のシェフに出会えるヴィルチュスへ足を運んでみてはいかがでしょう。
神崎千帆/Chiho Kanzaki
料理人。パリ12区のレストラン「ヴィルチュス(VIRTUS)」シェフ。調理師専門学校卒業後、フレンチレストランに勤務。20歳のときに初渡仏。2年間研修生として経験を積んだのち帰国。5年間のフレンチレストラン、パティスリー、バーでの修業を経て、再び渡仏。2007年から7年間在籍した南仏マントンの名店「ミラズール」(2019年現在3つ星)では、スーシェフを務める。2016年、公私ともにパートナーであるマルセロ・ディ・ジャコモ氏とともに、オーナーの支援のもとパリ12区にレストラン「ヴィルチュス」をオープン。2019年「ミシュランガイド」フランス版で1つ星を獲得。世界が注目するスターシェフの一人に。
Information
ヴィルチュス(VIRTUS)29 rue de Cotte Paris 12
電話 09 80 68 08 08
営業時間 火曜 19時〜21時、水曜〜土曜 12時〜13時、19時〜21時
定休日 日曜・月曜
ランチメニュー「Formule Découverte Déjeuner」39€~、
ランチ&ディナーメニュー「Menu Dégustation」85€~
(2020年2月現在)
https://www.virtus-paris.com
ルロワ 河島 裕子 / Hiroko Kawashima Leroy
ファッションライター。『家庭画報』をはじめ大人の女性に向けた雑誌で、ファッションやジュエリー、時計を中心に幅広く執筆。2018年より、家族とともに、拠点をフランス北部の田舎に移す。2019年夏、ついに憧れのブルゴーニュに家を購入! 夢は夫とともにB&Bを営むこと。パリで道ゆくおしゃれな人に体当たり取材する「
パリ、大人のおしゃれの見本帳」、行き当たりばったりのフランス移住エッセイ「
意外となんとかなる!? 40代のフランス移住」を家庭画報.comで連載中。
写真/水島 優 編集・取材・文/ルロワ河島裕子
表示価格は税抜きです。
※神崎千帆シェフの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」です。