お店の80パーセントがバラというほどバラ好きの二人。細い茎に咲く繊細な花の美しさに感嘆の声を漏らしつつ、花顔の異なるバラを集めて、茶室の入り口に妙なる美の空間を創出した。純色からニュアンスカラーへ。成熟した美意識でアートの領域へ
バラ
最後にオドラントの二人が選んだのはヌードカラーとパステルカラーのバラ。「頰にチークをのせる感覚で」とは、さすがメイクアップアーティストです。細い茎にはかなげに咲くバラを緩やかにまとめて自然な流れを見せます。
女性の感性で、魅力的なバラを生み出す育種家・河本純子さんの「クチュールローズチリア」。エアリーな花弁が優美で上品。これほどまでに情緒溢れるバラが生まれるのは、日本の育種家、生産者の飽くなき探求心と、皆が欲しがる花形を形にしようという気概によるもの。
美に対する客観的視点を大切すること、また、花の終わりまでをつぶさに観察し、新たな課題を見つけることなど、研究は続きます。
個性的なバラ作りに定評がある堀木園芸のバラ。中央のピンクのバラには手で花弁を反らせ華やかに見せる細工が加えられている。もともと切り花のバラは、まっすぐの茎に上向きに咲く高芯剣弁が当たり前でした。そこにガーデンローズ旋風が巻き起こったのは、前出の市川さんがフランスから庭バラ「イヴ・ピアッチェ」を持ち帰ってから。多くの人がガーデンローズ風のバラの虜になりました。
(左から)カフェラテ、ジュリア
35年ほど前に紅茶色のバラ「ジュリア」が世に出ると、何ともいえないシックな色味に多くの人が衝撃を受けた。後に「カフェラテ」などが登場し、ブラウン・モカ系の「アフタヌーンティー」ブームが起こる。スモーキーカラー、ヌードカラーが加わり「ニュアンスカラー」と総称されるように。形だけでなく色も多様化し、紅茶色のバラ「ジュリア」の登場から瞬く間に“ニュアンスカラー”が人気に。純色とは異なる微妙な色調は、万人向けではないからこそ特別感があり、感性に訴えかけてきます。
オドラントの二人の作品にも、花や日本への想いが静かに溢れています。
【バラ】
バラ科バラ属
和名:薔薇(ばら)
原産地:小アジア
出回り時期:通年
協力/並木容子〈ジェンテ〉 撮影/鈴木一彦 西山 航 取材・文/井伊左千穂 協力/市川バラ園 久保田邸(茶室)
『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。