このサービスはすでに国内で約70、海外で約10の医療機関が使用しています。
現在、このアプリを医療機器(医療画像処理ソフトウェア)として認証申請中で、承認されれば、さらに利用が広がりそうです。
東京医科歯科大学の田邉 稔教授が率いる肝胆膵外科でも導入に向けて最初の手術が2019年秋に行われました(下写真3枚)。
すい臓がん切除中にホログラムによる臓器画像を見る。すい臓は体の奥に位置し、周囲を血管が複雑に取り囲んでいて、手術の難易度が高い。手術部位に画像を置き、切除方法などを確認。「やはりホログラムだと、すい臓と周囲の臓器や血管の位置や距離を空間的に把握しやすいですね」と執刀医の東京医科歯科大学肝胆膵外科の赤星径一さん。「例えば知らない土地で運転するとき、カーナビがあると安心です。同様に今後は手術中などに患者個別の立体医療画像を見るのが普通になっていくと考えています」。
臓器や血管の形や位置は一人一人違うため、同じような病状の手術でも個別対応が必要で、それをこのシステムが支援します。
「現在はゲノム情報による個別化医療が注目されていますが、ゲノム情報と同じく、画像情報もAIが診断や治療をさらに精密化していくでしょう」。
医学教育やオンライン医療にも利用可能。患者の理解も深まる
このシステムはクラウドに同時にアクセスすれば、離れていても同じ空間を共有できるので、別の場所にいる外科医が執刀医にアドバイスすることも可能です。
また、若手外科医がベテラン外科医の手の動きをバーチャル空間で自分の手に重ね、手術中の動きをまねて練習することもできます。
杉本さんは遠隔オンライン医療への利用も視野に入れています。
「患者さんが在宅でゴーグルをかければ、遠くにいる医師がそばにいて対話しているように感じられ、円滑なコミュニケーションと安心をもたらします。そのうち家の中に360度スキャナーが置かれるようになると、患者さんの動きなどもモニターできます。同じVR空間を体感しながら説明を聞けば、患者さんも病状の理解が進むでしょう」。
今後は患者への説明時や人間ドックでもクラウドデータを共有できるシステムを計画します。
なお、このアプリは病院の電子カルテとは切り離されており、クラウド上の患者の画像データはアクセスのたびに振り当てられるオリジナルの番号を入力してダウンロードするため、個人情報が漏れることはありません。
一方で、Holoeyes社のサーバーには個人情報を含まない画像データのみが蓄積されています。
「日本はCTやMRIの保有台数が世界一で、国民皆保険制度があるために画像検査が頻繁に行われています。ですので、画像データを利活用しやすい素地があるのです。いずれ誰にでも使えるようなデータベースやプラットフォームを構築したい。そうすれば、患者さん自身がクラウドデータにアクセスして、体の経時変化を見たり、似たような症例を探したりでき、予防や早期発見につながるでしょう」。
自分の体内に入って健康状態を確認したり、遠隔地の主治医からアドバイスを聞いたり。
バーチャルとリアルが融合した新しい世界がすでに始まっています。