京都&パリ ひみつの美味案内 世界の食都、京都&パリ。地元のグルメな方々に、現地に暮らすからこそ知っているおすすめの美味をこっそり教えていただきます。旅の計画にぜひお役立てください。
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まだ間に合う!
美味とともに冬の名残を楽しむ
「いづ重」の冬の名物「蒸しずし」。冬の風物詩の蒸しずしに、限定いなりずし。
薪で炊いたご飯と具で作る名物すし
(取材・文/西村晶子)
今年は京都も暖冬ですが、冬のうちにぜひ味わってほしいのが「蒸しずし」。蒸しずしとは、せいろで蒸した温かいばらずしのことです。発祥地は大阪とも京都とも言われていますが、底冷えする冬に食べる温かいおすしとして考えられたのが始まりだとか。
京都・八坂神社の石段下に店を構える「いづ重」では、蒸しずしをはじめ、鯖や鱧の棒ずし、いなりずしなど、さまざまな京ずしを創業以来提供しています。京ずしを代表するお店のひとつとして、地元の方に信頼されてきたそのおいしさを徹底取材しました。
1.贅沢な具がたっぷり!おくどさんで作った熱々の蒸しずし
輪島塗の器で供される冬の京都の風物詩「蒸しずし」1800円。電子レンジ専用容器入りの持ち帰り品もある。ご紹介する「いづ重」は、鯖姿ずしで名高い祇園「いづう」で修業を積んだ初代が、明治末に店を構えたのが始まり。1948(昭和23)年に、現在の八坂神社の石段下に店舗を移し、以来京都人にも観光客にも親しまれています。
京ずしは生のネタを使わず、加工した具材を多用しているのが特徴です。冬の風物詩として知られる、ほっかほかの蒸しずしもそのひとつ。ちらしずしをそのまま蒸して温めたものと思っていましたが、「いづ重」では、酢をなじませて酸味をやわらげるためにすし飯を一昼夜寝かしているとのこと。
八坂神社の石段下、交差点の北西角にあるお店。店先で持ち帰り用のすしを販売し、予約も可能。すし飯に焼き穴子、焼き鱧、煮いか、甘く炊いたしいたけを混ぜ込み、蒸し上げる直前に錦糸卵や海老、いかなどをトッピング。煮たり、焼いたり、蒸したりと、手間をかけてさまざまな調理を施しています。何より驚きなのは、ご飯や具の煮炊きには今でも昔ながらの「おくどさん」(かまど)と薪を使っていること。材料も調理法も創業時から変わっていないそうです。
1人分ずつせいろを用いて高温で一気に蒸し上げているので、中まで熱く、ご飯はしっとり、具はふんわり。蓋を取った瞬間に湯気が上がり、最後の一粒まで温かい状態で味わえます。
2.ご贔屓さんのリクエストから生まれた、冬だけの“大人のいなりずし”
すし飯を程よく詰めた定番のいなりずしは、お揚げが味の決め手。夏の間はお休み。5個800円。おすすめは蒸しずしだけではありません。いなりずしのお揚げには、吟味した国産大豆100%の手揚げの油揚げを使い、釜でじんわり味を含ませています。
焼き九条ねぎの香りが口いっぱいにひろがる「大人のいなりずし」は3月21日まで。5個750円。定番のいなりずしは、ご飯に、煎った麻の実や甘く炊いたごぼうを混ぜ、柚子の香りをつけていますが、「麻の実が歯に挟まる~」という年配のお客さまの声を受けて、焼き九条ねぎ入りの「大人のいなりずし」が誕生したそうです。おくどさんのおき火で焼いて刻んだ九条ねぎがたっぷりと入った、お彼岸までしか注文できない、冬限定の特別ないなりずしです。
3.花街の人が太鼓判を押す、持ち帰りの折り詰めもおすすめ
いづ重は、すしの名店「いづう」から名をもらった、創業100余年の老舗。京ずしは具材を加工しているので、時間が経ってもおいしくいただけます。すべて折り詰めにしてもらえ、ご紹介した蒸しずしも持ち帰れます。折り詰めは新幹線弁当や花見弁当に人気ですが、地元・祇園のお客さまは、楽屋見舞いや手土産にされるそうです。何十年と通うお客さまもいて、どのおすしも変わらぬ味を大事にされています。
いづ重
京都府京都市東山区祇園石段下西北角
電話 075-561-0019
営業時間 10時30分~18時30分(LO)
定休日 水曜
※価格は税別。税金は店内で食べる場合は10%、持ち帰りは8%。
https://gion-izuju.com/●京都の記事一覧はこちら>> 西村晶子/Shoko Nishimura
関西を拠点に、京都の食や文化、人、旅を幅広く取材、編集。長年、『家庭画報』の京都企画を担当し、さまざまな記事を執筆。最近の書籍の仕事に『
旨し、うるわし、京都ぐらし』(大原千鶴著)がある。
撮影/福森クニヒロ