臨床応用には確実性、子孫への影響、倫理に懸念
とはいえ、ゲノム編集はまだ完璧な技術とはいえず、「計画どおりにDNA配列や塩基の削除や挿入ができる確率はまだ高くありません」と松原さん。
また、ねらいどおりに編集できたとしても、ヒトの病気の治療などに応用した場合、なんらかの有害な事象が起こらないかどうかは長い時間を経ないと検証できないのです。
特に大きな影響があるのは、不妊治療などのために医療機関に保管されている受精胚(受精卵を培養液で培養して、何回か細胞分裂させたもの)に対してのゲノム編集です。
受精胚の段階でゲノム編集をすると、ほぼ全身の細胞がゲノム編集された後の細胞になります。そのため、重い遺伝病では「究極の治療法となりうる可能性がある」(松原さん)
半面、その編集されたゲノムは子孫にまで伝わります。つまり、後戻りができない状態にもなるのです。
さらに、ゲノム編集を使って、親が好ましいと考える外見や体質を持つデザイナーベビーを作ることも可能になるかもしれません。
そのような懸念から、フランスやドイツでは法律でゲノム編集の基礎研究と臨床研究を禁止しています。英国では臨床研究は禁止、日本でも研究に関する法律や指針の制定について議論が始まりました。
一方で、これまで治療ができなかった難病をターゲットにした、ゲノム編集による治療薬の臨床試験が進んでいます。
次回は、医療におけるゲノム編集の利用の動きやその未来について、さらに詳しく紹介します。