右から・関根正二《子供》1919年 油彩、カンヴァスアンリ・マティス 《縞ジャケット》 1914年 油彩、カンヴァス 新収蔵品のウンベルト・ボッチョーニ《空間における連続性の唯一の形態》1913年(1972年鋳造) ブロンズ すべて石橋財団アーティゾン美術館蔵描いた人、選んだ人、見る人の人生が交わる
ナビゲーター・文/ひびの こづえ私が30代の頃、ニューヨークのソーホーのギャラリーで、ある画家の新作の個展に遭遇し、1枚の絵に心をもぎ取られ、この絵が飾られた自分の家を想像した。
具体的な金額は覚えていないけど中古マンションほどの金額だったと記憶している。頑張れば買えるかもとそんな現実感があった。その時買っていたらと今でも時々思う。
ある時どこかの美術館でその絵に再会した。
先日、アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)の開館記念展に足を運んだ。
素晴らしい作品が並んでいるのはもちろん、ブリヂストン創設者の石橋正二郎さんが買い求めた時代の状況や気持ちを知りたくなる。
コレクションはどこか優しく愛らしい作品が多く並んでいる気がした。
マティスの力強い作風とは違う《縞ジャケット》は白のベースに優しいタッチ。藤田嗣治の《横たわる女と猫》は白に消え入りそうに繊細な線。ピカソの《画家とモデル》はまさに子供の絵の様に微笑ましい。
私が東京藝術大学を目指し予備校に通っていた時、セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》と《帽子をかぶった自画像》をよく色使いのバイブルにしていた。
ポール・セザンヌ 《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》 1904~06年頃 油彩、カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館蔵色んな色を重ねて光を感じる印象派の作品は特に好きだった。
それがここにあり、記憶が蘇る。石橋さんが何を想いこの絵に出会い選んだのか? 描いた人と選んだ人の時代の交差を自分の人生まで絡めながら見ることになる。
美術館のキュレーターとは違う自分の目とお金で求めたそのコレクションが次の時代に引き継がれている。
時として個人の美術館は次の世代に引き継がれずに終わることもあり、その作品は何処へ行くのだろうと心配になる。
私が親しんだブリヂストンの名は変わったけど、より身近に沢山の作品に出会える場として生まれ変わった。アートが日常の生活の中に入ることで人の生活はもっと豊かになる。
ひびの こづえコスチューム・アーティストとして広告、演劇、ダンス、バレエ、映画など、その発表の場は多岐にわたる。NHK E テレ『にほんごであそぼ』のセット衣装を担当中。 『開館記念展 見えてくる光景 コレクションの現在地 』
新装開館したビル全体が美術館に。2015年から建て替えのために休館していたブリヂストン美術館が、アートとホライゾン(地平)を組み合わせた名称「アーティゾン美術館」として新たに開館。約2800点のコレクションから新収蔵作品31点を含む206点を精選して展示。
アーティゾン美術館〜2020年3月31日まで
休館日:月曜
日時指定予約制。
ウェブ予約チケット:一般1100円(ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ窓口販売・1500円)
ハローダイヤル:03(5777)8600
美術館URL:
https://www.artizon.museum展覧会の詳細はこちら>> 表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/川瀬一絵
『家庭画報』2020年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。