復興への祈りを込めて
東北の桜街道を行く
※開花時期や桜祭りの日程は例年の目安です。各イベントの実施は、天候や新型コロナウイルスの影響などにより変更、中止になる場合があります。お越しになる際は、事前に各問い合わせ先に開催状況をお問い合わせください。福島県三春町に咲くベニシダレザクラの「三春滝桜」と菜の花。樹高13.5メートル、根回り11.3メートルの巨木で、樹齢は1000年以上と推定される国指定天然記念物。【福島】三春滝桜(三春町)
力強く華麗な、樹齢1000年の古木
東北の桜を巡る際、ぜひ参考にしたいのが復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」が定めた“桜の札所”。福島県21番、宮城県12番、山形県18番、岩手県14番、秋田県12番、青森県11番の計88番あり、番外編20番を含め全体では108番になる。スタンプラリーで札所を巡れる(お問合せ:東北・夢の桜街道事務局 TEL:045-319-4358)。この「三春滝桜」は、札所の1番目に選定されている。美しく咲く東北の桜を愛でる旅へ──
震災で大きく地面が揺れたため、
東北の櫻の多くは
根切れを起こしているに
違いありません。
太い根が切れてしまうのは、
木にとって大きなダメージになります。
けれど、その年もその翌年も
櫻はきれいな花を咲かせました。
たくましさに感じ入ります。
─玄侑宗久
2013年に刊行された、被災地の桜の様子をまとめたフォトブック『花咲う』に寄稿されたエッセイ「櫻と東北」より●三春滝桜福島県田村郡三春町大字滝字桜久保296
(問)三春町観光協会
TEL:0247(62)3690
見頃/4月中旬~下旬(例年)
観桜料/300円
※出店はすべて中止。観桜は可能。
【福島】福聚寺(三春町)
十一面観音像の正面に植えられた、2本のベニシダレザクラ
福聚寺住職として見守ってきた、福島の復興
「厳しい冬の先の、桜の美しさ」─玄侑宗久
玄侑宗久(げんゆう・そうきゅう)
1956年に福島県三春町・福聚寺に生まれ、2008年より第35世住職。01年『中陰の花』で芥川賞受賞。東日本大震災復興構想会議委員、「たまきはる福島基金」理事長を務める。写真は福聚寺ゆかりの雪村の達磨図の前で撮影。表具は華やかな桜の絵柄である。「私が生まれ育った三春町は、梅・桜・桃が一斉に咲き、3つの春が同時に訪れることからその名がついたといわれています。
「三春滝桜」は『万葉集』にも登場し、古くから桜の名所でした。その美しさを気に入った田村義顕が、1504年に三春城を築城。田村家の菩提寺であった福聚寺も、築城とともに、三春に移転しました。
現在も、義顕、隆顕、清顕(伊達政宗の正室・愛姫(めごひめ)の父)のお墓を守っています。
観音堂に納められた木造十一面観音像。その正面の位置にベニシダレザクラは植えられている。境内には大正5年に檀家から寄進されたソメイヨシノ350本も咲く。田村家は、三春滝桜の子孫木を領地内の屋敷や寺社に植樹し、桜による町作りを進めました。ちなみに境内のベニシダレザクラは樹齢450年。三春滝桜の“長女”であると同時に、愛姫の誕生樹なのではと推測しています。
本堂は江戸時代に2度の火事で消失し、1800年に上棟されたものです。東日本大震災のときは築210年でしたが、昔ながらの木組み構造のお陰で被害は最小限でした。桜は主根が傷ついたのではと心配しましたが、枯れることなく毎年花を咲かせています。
境内を歩いていただくと、雑草や苔が多いことに気づくかと思います。草木や桜が生きやすい土壌を大切にしたいと考え、あえて刈り取らずに砂、粘土、腐植で土作りをしています。そうすると水が循環し地盤が固まり、人間にも生きやすい環境になるでしょう。
寒い冬が終わると、歓喜雀躍(じゃくやく)。桜とともに春の喜びがやってきます。桜はその年に芽吹いた若い蕾にしか花をつけませんが、その幹や枝は父であり母であり、先祖代々が一体になっています。
その場所で、自前で生きて、自前で芽を出して、自前で花を咲かせる――人間も同じように、自分で花を咲かせるしかないわけですが、何百年にもわたり、それを淡々と続けている美しい桜にぜひ会いにきてください」
〔東北大学と連携した復興支援活動〕
放射線の専門家である、東北大学理学研究科・小池武志准教授(写真右)と田村裕和教授(同左)は、震災直後、玄侑さんと三春町役場とともに「三春“実生(みしょう)”プロジェクト」を始動。土壌の放射線測定や、児童・生徒の外部被ばくの測定を実施。活動は現在も続けている。「子どもたちのために、安全で安心な環境作りの一助になれば」と話すお二人。記憶を風化させないよう、2018年には三春滝桜の子孫樹が理学部キャンパスに植樹された。●臨済宗妙心寺派 福聚寺(ふくじゅうじ)福島県田村郡三春町字御免町194
(問)三春町観光協会
TEL:0247(62)3690
見頃/4月中旬~下旬(例年)
撮影/大泉省吾 取材協力/日本花の会
『家庭画報』2020年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。