鯛かぶらはまさに出会いもんの代表格。春真っ盛りを感じさせる鯛と、そろそろ名残となるかぶらの絶妙なハーモニーは、私の身に沁みついた心に深く残る味です。季節と行事と食。その暮らしが連綿と続いていく。それが京都なんですね。料理・文/大原千鶴
出会いもん。「若竹煮」「鰊なす」「棒鱈と海老芋」「ぶり大根」そして「鯛かぶら」。どれをとっても京都人には欠かせない料理です。
そのフレーズを聞くだけでふんわりと味のイメージが頭の中に広がり「あぁ、食べたいなぁ」「これ食べんと季節が進まんわ」「やっぱりいただいとかなあかん」そんな感じです。
関西の人は鯛が好きです。明石に代表される有名な漁場があり、いけ締めや輸送のプロが素晴らしい連携プレーで鯛を美味しく、料理屋さんや魚屋さんに届けてくれます。
そのルートで仕入れられた鯛は同じ天然でも味が全然違います。信頼できる魚屋さんとのやりとりがあってこそ、甘みがしっかりあって色がきれいでむっちりと美味しい鯛が家庭でも味わえます。
そんな信頼関係の中で生活できる、それが京都の暮らしだなと思います。
普段はそんなお鯛さんの身をいただいたあとの残った骨で鯛かぶらを炊きます。
合わせるかぶらはあれば聖護院かぶらを。千枚漬けで有名ですが、煮ても甘みが強く味が濃くて本当に美味しいものです。
薄口醬油だけで味をつけても「みりん入ってるの?」と思うくらい甘みが滲み出て、ついついお汁までいただいてしまいます。
また天然の鯛は骨にコブがあることが多いのですが、これは潮の流れが速い瀬戸内海で鯛が泳いでいるうちに骨折し、その骨が自然治癒する時にコブができるのです。
なんとも厳しい話でお鯛さんには申し訳ないのですが、こんな鯛が関西人は大好きなのです。
桜の時期は婚姻色で鯛の色がきれいになります。そして春の産卵が終わると身がやせて味が落ちるので今のうちに味わおう。それが桜鯛です。
「おめで鯛」行事が多くなるこの時期に、重ねて縁起がよく、やっぱり魚の王様と言われる味よし姿よしの鯛は本当に人気者。
お魚屋さんで見ているだけで気持ちが晴れやかになる。そんな気がします。
さてさて、2年間お世話になりましたこの連載も今回で終了となりました。料理を作るたび、エッセイを書くたび、心が豊かになる。そんな幸せなお仕事でした。
長きにわたりお読みいただき、お支えいただき本当にありがとうございました。