【金沢】
北陸の海と山の恵みを存分に
春先に旬を迎え、あっさりした脂の能登めじまぐろのトロのお造り。明末期の蝶古染付に美しく映える。金沢の名工・大垣昌訓作の蒔絵盆など、器づかいも圧巻だ。1.【片折】(金沢市)
地場の食材と真摯に向き合う気鋭店
さらさらと流れる水音も情緒ある浅野川沿いの町家に暖簾を掲げる「片折」は、富山県氷見出身のご主人・片折卓矢さんが素材、器、空間、すべてに美意識を行き渡らせ、若手料理人の英気がみなぎるカウンター割烹です。
山の霊水で蒸し煮にした在来種大根の上に、炭火焼きにしたあんこうを盛った椀物。片折さんの1日は、早朝、氷見漁港に出向くことから始まります。水揚げされたばかりの新鮮な魚介をなじみの仲買人から購入し、魚に合わせた下処理をその場で施すことも。
また本来の味が濃く出た在来種野菜を育てる農家などにも立ち寄り、瑞々しい採れたて野菜を仕入れてきます。
奥能登・珠洲の生産者から仕入れた干しぜんまいを、かつおだしで煮含ませた信田巻き。「生産者を巡ってみて、地場の獲れたて、掘りたての食材の力強さに感動しました。この感動を料理人として伝えたい。北陸そのものを召し上がっていただくという心持ちでカウンターに立っています」と片折さん。
金沢の名料亭で研鑽を積んだ片折卓矢さん。天然木の香りも清々しい店内のカウンターは6席。その言葉どおり、日本料理の軸となるだしも、利尻昆布と能登・中島の霊水、一本釣りのかつおのみを使った枕崎産本枯れ節を客人の目の前で削って仕立てたもので、驚くほど清澄なる味わい。
そのだしを利かせて、素材本来のおいしさをストレートに表現した料理の数々は、鮮烈な印象となって心に残ります。
北陸の極上の素材と心意気ある料理人が出合えばこその美味がここにあります。
お店の目の前は、浅野川の河川敷。春には桜の木々が点在する卯辰山の景観も楽しめる。白山鶴来の大工に依頼したという建物。建具、しつらいなどの空間美も見事。片折(かたおり)住所:石川県金沢市並木町3-36
TEL:076(255)1446
営業時間:12時~14時30分(水曜・日曜のみ)、17時~19時30分、20時~22時30分(夜は2部制)
定休日:不定休
URL:
https://kataori.jp/昼、夜ともに同じコース内容で2万8000円~。
※要予約
3月頃に最も味が濃くなる能登牡蠣の酒蒸し。2.【東山和今】(金沢市)
茶屋街の風情に浸り味わう、北陸の春
町家建築が建ち並ぶ、ひがし茶屋街の路地に店を構えて今春で3年目。店主・今井友和さんが生み出す前衛的な日本料理を目当てに、季節ごとに必ず訪れるという人も多い評判のお店です。
「能登ふぐの湯引きとのとてまりの白子ソース和え」。月替わりとなる献立は、スモールポーションで小皿に盛られた料理が、ご飯や甘味も含めて13〜15品ほど供される多皿構成。食材の組み合わせ方や調理法も趣向を凝らしたコースが展開されます。
ホワイトアスパラガスとほたるいかのお浸し。たとえば、淡泊な能登ふぐは、炭火で焼いた原木しいたけ“のとてまり”に挟んでその香りを移し、乾燥しいたけと昆布煎餅を添えて食感も楽しめるような仕上がりに。
またお品書きには、「ふぐ しいたけ」というふうに素材のみが書かれるだけ。次はどんな料理なのだろう?と想像を巡らせながら待つのも楽しいひとときです。
お凌ぎの“握らないすし”。がす海老とうに、自家製のりがアクセント。店内は、珠洲の珪藻土を用いた印象的な黒カウンターと中庭を望むテーブル席を配し、昼間でも茶屋街の喧騒とは離れた落ち着いた時間が流れ、ゆっくりと美食を満喫できます。
京都で修業し、主計(かずえ)町「嗜季(しき)」の料理長を経て独立した店主・今井友和さん。和のオーベルジュ「薪の音 金澤」の敷地内に建つ。左横の小径を進んだ先に入り口がある。東山和今(ひがしやまわこん)住所:石川県金沢市観音町1-5-8
TEL:076(252)6657
営業時間:12時~、18時~、19時30分~(いずれも一斉開始)
定休日:不定休
URL:
https://kanazawa.makinooto.co.jp/dinner/wakon昼コース5800円、7800円、9800円。夜コース7800円、9800円、1万2800円。写真は昼9800円の3月~4月の献立より。
※要予約
能登ふぐの竜田揚げ、銀だらの幽庵焼き、帆立しんじょうなどの魚介料理も盛り込まれる「特選 珠姫の宝石箱」。かつて藩主が園遊会で使ったであろう弁当箱を模して昭和初期に製作された引き出し式重箱は、今回のリニューアルに合わせ、漆を塗り直して再活用されている。3.【兼六園茶屋 見城亭】(金沢市)
名園の春景色とともに旬をいただく贅沢
日本三名園の1つ、兼六園の桂坂口の横に軒を連ねる茶店通りの角に建つ「見城亭」が昨秋、建築家・隈 研吾氏設計のもとリニューアル。内装とともに、献立も一新されました。
黒く塗られた木材とシンプルな家具、金箔を施した照明が印象的な2階のレストラン空間は、一面の窓ガラス側にカウンターをしつらえ、眼前には威風堂々たる金沢城の石垣と石川門、そして花見の時期には、枝ぶりも見事な美しい桜が咲き誇る景観が広がります。
自分で一箱ずつ引き出すのも楽しい朱の重箱には、あおりいか、ばい貝など旬魚を握った手毬ずし、治部煮椀、はす蒸しなど、金沢の名物が盛り込まれ、見目にも麗しい仕立てです。
約2週間の花見期間のみ提供される「花見 珠姫の宝石箱」。桜海老ご飯など彩りも豊か。また、リニューアル後、初めての春を迎えるにあたって、花見期間限定で「花見 珠姫の宝石箱」も提供。
白海老のかき揚げやゆり根の三色団子など、春らしい食材を詰めたお弁当に心も躍ることでしょう。兼六園お花見散策と併せて、ぜひ訪れたい一軒です。
黒で統一された室内建築には、炭素繊維ワイヤーなどの最新技術が取り入れられている。兼六園茶屋 見城亭(けんろくえんちゃや けんじょうてい)住所:石川県金沢市兼六町1-19
TEL:076(222)1600
営業時間:8時~10時30分(朝食は3月~11月の日曜のみ)、11時~15時(14時30分LO)、17時~21時(土曜のみ)
定休日:火曜(季節により変動あり)
URL:
https://www.kenrokuen.jp/「特選 珠姫の宝石箱」4000円(予約なしでも提供しているが、2020年3月28日~4月12日の花見期間のみ2日前までに要予約)、「花見 珠姫の宝石箱」3500円(花見期間限定、予約可)。
個室1室(6名)