ピエール・ボナール《雄牛と子ども》1946年 油彩、カンヴァス 個人蔵 Collection Prof.Mark Kaufman日常を駆け回る子どもたちを発見する
ナビゲーター・文/結城昌子子どものための名画の絵本をつくったことをきっかけに、幼児から小学生を対象に遊びを通じて名画に“挑戦する”鑑賞ワークショップをするようになった。
目を輝かせ手を動かす子どもたちから、ありあまる活力を注入され元気になる、その日だけは。ところが、翌日になるとこちらの体が、ひどい疲れに襲われる。
子どもたちの活力は際限なく、容赦ないのだ。元気をくれもするが、奪いもする。
『画家が見たこども展』を見て、それを思い出した。
昔のヨーロッパでは、「子ども」とは「不完全な大人」という理解だったという。子ども時代のイエスの絵を見ればそれに気づく。なんとなく小さくなったおじさんの顔をしている場合が多い。
そんな見方をひっくり返し、子どもは子どものまま、未知の価値をもつことに、19~20世紀にかけての画家たちが気づいた。なかでもナビ派の時代の人々の絵からは、それが伝わってくる。すばらしい展覧会だと思った。
フェリックス・ヴァロットン 《女の子たち》 1893年 木版、紙 三菱一号館美術館蔵展覧会の掉尾(ちょうび)を飾るのは、ボナールが死の前年に描いた《雄牛と子ども》だ。絵の前で見惚れて動けなくなった。
悲しげな様子で、何かを夢見る男の子。その姿に画家の少年時代を重ねることも可能だし、もっと自由に「子ども」という世界に到達した画家の最期を見ることもできる。今日、私が日々目にする児童画にそっくりだ。
さし絵本や、子どものためのぬり絵本なども展示されていて、当時の子どもたちへの関心が伝わってくる。
正面を向いた行儀のいい姿は減り、日常を駆け回る子どもたちの姿があふれている。かわいいだけでなく、小生意気な子どももいるからおもしろい。
印象派のルノワールの時代の愛らしい肖像画に始まった子どもへの目線は、世紀末の息苦しさを抜け、「未知の活力」を秘めた子どもを発見したのかもしれない。
ゆうき まさこアートディレクター、絵本作家。近書にアート絵本シリーズ『小学館あーとぶっく14 広重の絵本』『小学館あーとぶっく15 北斎の絵本』。artand.jp 『開館10周年記念 画家が見たこども展』
モーリス・ドニ《最初の風景》(部分)1912年刊行 挿絵本 個人蔵 ©Sabrina et Gilles Genty「子ども」に焦点を当て、都市生活や近代美術と子どもとの関係を探る展覧会。ボナール美術館ほか国内外の美術館の所蔵作品より、19世紀末パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」を中心とする画家たちによる油彩・版画など112点を展示。
※会期が以下に変更となりました
三菱一号館美術館 会期:2020年6月9日~6月21日まで
10時~18時: ※日時指定予約制
月曜休館
一般1700円
ハローダイヤル:03(5777)8600
※入館に際しての注意点やチケット予約方法などはこちら>> 表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/川瀬一絵
『家庭画報』2020年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。