美を紡ぐ人々 パリでその実力を認められた「美を紡ぐ」日本人アーティストや職人たちとの出会いを、フランス移住2年目のライター・ルロワ河島裕子が綴ります。
連載記事一覧へ>> 美を紡ぐ人 佐藤 舞さん(ヴァイオリン職人)【後編】
取材・文/ルロワ河島裕子穏やかな人柄も魅力のヴァイオリン職人の佐藤 舞さん。日本を離れて、ますます日本の歴史や文化に興味が湧いてきたという彼女の愛読書は、司馬遼太郎らの歴史小説。アーティストたちが厚い信頼を寄せるパリ・ローマ通りの名工房
楽器店が立ち並ぶパリ8区のローマ通りに、前回ご紹介したヴァイオリン職人の佐藤 舞さんが働く工房「ギー・ココズ」はあります。
優しい光が降り注ぐアトリエの壁には、たくさんのヴァイオリンが所狭しと掛けられ、ニスや松ヤニなどの修復に使われる材料の匂いと相まって醸し出される雰囲気は、まさに私が思い描いていた“工房”のイメージそのもの。
クラシック音楽や楽器には疎い私ですが、その場に身を置いているだけでワクワクし、なんだか物語の世界に足を踏み入れたような気分になってしまいました。
その工房には、朝から次々とプロのアーティストや愛好家たちが訪れ、ヴァイオリンやチェロなどの楽器の他に、弓なども持ち込まれ、正直こんなに修復の需要が日々あるのかと驚いたほど。
ヴァイオリンやチェロなどの商品が、所狭しと並ぶ工房「ギー・ココズ」の店内。手際のよさに熟練の技を見る
この工房で働き始めて10年目になる佐藤さん。働き始めた当初は練習を重ね、安価な楽器の修復から始まり、経験を積むことで名器と呼ばれる楽器の修復もこなすように。
そして今では手先の器用さが要求される弓の毛替えや修復を任されるようになりました。そんな佐藤さんの作業を拝見させてもらいました。
話し方はとてもおっとりしている佐藤さんですが、こと弓の毛替えとなるとその動きは驚くほど俊敏。作業の手際のよさに職人としての卓越した技術を感じます。
弓に使うホースヘアの毛束の先端に松脂を砕いた粉をつけ、炙って溶かし接着。「安全性を高めるため接着剤を使うこともありますが、私はホースヘアの接着には主に昔ながらの松脂を使用します」