緻密な手仕事に日本人ならではの細やかさを感じて
「弓の修理は、毛替えなど、同じ作業が多いのですが、弓は棹が折れてしまうと取り返しがつかないので、やり始めた当初は、その力加減がわからずとても緊張しました。今では“頃合”や、お客様の好みの使用感がわかるようになり、その方に合わせた弓の張り方を心がけています。
弓の先端には、チップと呼ばれる弓の先を保護するパーツがついています。この形状自体は弓の機能自体に影響はしないのですが、チップが美しく仕上がるとなんだか嬉しくなります」。
細やかな気遣いとこだわりの日本人ならではの細やかさを感じます。
弓のチップの仕上がりなど、小さなディテールにもこだわる佐藤さん。弓の毛替えの作業は楽器本体の修復に比べ単調ですが、より緻密さが求められるのだとか。「同じ作業の繰り返しだけれど慎重さと細やかさが求められる弓の修復は、日本人には合っている気がします」数か月かけての大掛かりな修復も
弓の修復を主に担当する前はヴァイオリンやチェロ本体の修復を手がけていた佐藤さん。最後に手がけたのが、ベルナルデルという19世紀に活躍したフランスの製作家によるチェロです。
「市場における価値はチェロで1000万円は下らないという名器なのですが、こちらは表板に大きな亀裂がいくつも入っていて、ニスの色ムラがあるなど、非常に悪い状態で、修復に6、7か月を要すほど大掛かりなものになりました」
まずは表板の補強をし、割れている箇所の起伏を直しながら接着。「楽器本体の修復はその楽器の特性や状態に応じて、臨機応変に対応することが求められます。例えば古い楽器などは左右対称でないものもありますし、完璧に修復することが不可能なことも多々あります。クリエイティビティが求められると同時に、どこまで修復できるか見極める力が必要ですね」。(写真/佐藤さん提供)色ムラの激しかった箇所を剥がし、ニスのリタッチ作業(修復塗装)。(写真/佐藤さん提供)