未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。
前回の記事はこちら>> 進む技術開発に、社会的・倫理的な議論が追いつかないゲノム編集
世界で大きな話題になっているバイオ技術、ゲノム編集。
その医療応用には大きな期待が寄せられ、ゲノム編集を用いた一部の薬の臨床試験がすでに始められている一方で、その将来的な影響には不安もあります。
前回に引き続き、国立成育医療研究センター研究所の松原洋一所長に詳しく聞きました。
〔未来を創ろうとしている人〕松原洋一(まつばら よういち)さん国立成育医療研究センター 理事・研究所長
東北大学名誉教授
1979年東北大学医学部卒業。神奈川県立こども医療センター、東北大学で小児科研修後、ニューヨーク州立発達障害基礎研究所、エール大学で研究員。帰国後、東北大学医学部助教授を経て、2000年から同大学大学院医学系研究科遺伝病学分野教授を務める。13年より現職。国際人類遺伝学会連合理事長、日本人類遺伝学会理事長などの要職を歴任。専門は遺伝性疾患の病因解明や遺伝子診断。一部の遺伝病の予防・治療への応用に期待が高まる
松原さんは小児科医として治療が難しい遺伝病の多くの子どもたちに出会い、遺伝病の研究者となりました。
基礎研究に携わる傍ら、東北大学病院で遺伝カウンセリングを担当し、遺伝病の患者やその家族の相談にあたってきました。
松原さんによると、遺伝子の異常が明らかになっている遺伝病は世界で約9000種類ほど報告されているとのこと。
「ゲノム編集には遺伝病の治療に大きな可能性があります」と話します。
日本医学会・日本医学会連合会では、2019年に遺伝病を含む難病の中でも受精胚に対してのゲノム編集の研究が効果的と考えられる疾患34種類を選び出し、「ヒト受精胚にゲノム編集技術を用いることによって疾患の病因、発生機序等の解明に資する可能性がある疾患リスト」を公表しました。
遺伝病の患者や家族にとっては、ゲノム編集の研究が進み、治療に使われるようになることは大きな希望であるものの、現状ではすべての遺伝病や難病にゲノム編集の研究が有効、あるいはそれが治療開発につながるとは考えられていないのです。