道具や糸、巻く回数の違いで生まれる、表情豊かな疋田絞り
絞りの行程が分かる製作見本の絹布を取り出し、初心者のA子とE子にも分かりやすいように説明をしてくださいました。まずはこの技法、皆さんはご存知ですか?寺田「まずはこちら。ご存知ですか」
はい。これは疋田です!
寺田「間違ってはいませんが、惜しい! 疋田というのは、ひとつひとつの粒が集まって生まれる柄の総称なんです。
例えば友禅など、手描きで表現しても疋田柄と呼びます。今、E子さんに聞いたこの絞りは、本疋田または京鹿の子絞り。ひとつひとつ、手で布をつまんで絹糸を7回括り、2回締めているんですよ。
ではこちらとの違い、わかりますか?」
見え方に差はあれど、先ほどの絞りと何が違うのでしょうか……。勉強不足のE子には違いがわかりません……。
寺田「こちらはかぎ針のような道具を使って布を引っ掛けてつまみ、木綿糸で4回巻いて締める、四つ巻き絞りと言う疋田絞りです。真ん中に残る点が大きく、染まっている面積が広いことも分かりますね。
それに対して本疋田は、使用する絹糸が木綿糸よりも細いので、より強く巻き締めることができます。真ん中に残る点が非常に小さく、白場も多く残せるので、繊細な表情を生み出すことができるんですよ」
使う糸や道具、巻く回数を変えるだけでこんなにも表情を変えられるのですね。
左が手でつまみ、絹糸を7回巻いて2回締める本疋田、右がかぎ針のような道具を使って木綿糸で括った四つ巻き絞り。説明を受けた後に拝見すると違いは一目瞭然です。ちなみに総絞りの訪問着の場合、本疋田の数はどのくらいになるのでしょうか。
寺田「16万粒くらいでしょうか」
160,000粒!? 手で布を数ミリつまみ、絹糸をその先端に7回巻いて、ギュッと2回締めるという1粒の作業を16万回も!
寺田「はい。この本疋田絞りは100%女性の仕事です。女性の根気強さと細い指先がないと、この繊細な世界は生まれません。昔は農家が農閑期や作業後に家で行っていた内職だったこともあり、たくさんの職人さんがいましたが、時代が変わり、現在職人さんは激減しています。京都には2〜3人しかいません。
そして、職人さんによって絞りの表現が変わるので、一反のきものは必ず一人で仕上げます。時間も手間もかかる総絞りは、日本だともう誰も受けてくれません。2万粒の部分絞りが限度です。技術指導をした中国やミャンマーの職人さんに発注をすることもありますが、こちらもどんどん減っています」
なんだか寂しいお話です。でも総絞りに魅了される女性がいる限り、決してなくならないと信じております!
寺田「そうなんですよ。日本は和装の文化がまだ現存しています。減ってはいますが、ゼロにはならないと思っています。それに絞りを学びたいと新たに始める人もいますからね」