絞りについてのさまざまな疑問を寺田さんに伺いましたQ.総絞りのきものはどんな時に着るのですか?A.総絞りは礼装のためのきものです。木綿に関しては、普段着や浴衣になりますが、絹はどうしても手間と時間がかかるので、格の高いきものになるんです。皇族の方々もお召しになられていて、とくに上皇后様は絞りがお好きでいらっしゃいます。グレーの総絞りは私たちが納めました。
Q.着る季節はあるの?A.総絞りは空気を含んでとても温かいので、袷で着ていただきたいなと思います。昔は赤や黒など強い色ばかりでしたが、最近は淡い色もあり、着る季節は随分と長くなっています。また、部分的な絞りのきものに関しては、単衣や夏物もあるんですよ。絞りの技法、量、柄の配し方によって着ていく場面はさまざまに楽しめると思います。
Q.お茶席で着てもよいですかA.部分的な絞りのきものは、派手すぎず華美すぎずちょうどよいと、お茶の先生にも好んで着ていただいています。ただ、総絞りは、華美すぎて浮いてしまうことがあるかもしれません。
Q.絞りのきもののお手入れ法を教えてくださいA.基本的には他のきものと同じようなケアをしてください。特に湿気には注意。年に一度は風通しをして欲しいと思います。総絞りをタンスにしまう際は、絞りがつぶれないよう、上の方に入れて欲しいと思います。それと絞りを括り直さないといけないので、染め直しは難しいかと思います。
Q.絞りの帯揚げはアイロンをかけてもよい?どうしてもたたみじわなどが気になる場合は、絞り部分に当たらないようアイロンをかけてくださいとのことでした。A.絞りが潰れてしまうので、アイロンはかけないでください。スチームアイロンにして、絞りの部分に触れないよう蒸気をふんわりとあてる程度にしておきましょう。帯揚げの端と端をまち針かピンなどで止め、スチームを当てるとシワが伸ばせると思います。絞りのシワは美しさの一部。ぜひ残しておいてください。
Q.きもの初心者さんにおすすめの、ファースト絞りを教えてください。「京絞り 寺田」さんの展示会に並んでいた、色や絞りの配置が美しい付け下げ。きもの初心者のA子とE子でも着て行ける場所が多く、帯次第でさまざまなシーンで楽しめるとのことでした!A.はい、それは部分的な絞りが配された色無地感覚の付け下げです。色無地の代わりとして、入り口のきものとしてお求めいただく方も多いですよ。合わせる帯次第でさまざまなシーンで活躍してくれると思います。
寺田さんの説明を伺った後、改めてタンスから取り出して絞りの技法を確認しました。私の元に届くまで、何人もの職人さんの手が入っていることを実感し、愛着は倍増です。実は私のファースト絞りも寺田さんの付け下げ。アイスグレーの地には、帽子絞りに加え、金と銀糸で繊細な刺繍を施していただきました。子どもの卒業式、お招きいただいたパーティ、そしてきものSalonのイベントなどたくさんの場所で楽しんでいます。タンスに眠っていた祖母の帯もモダンにしてくれるんですよ!
今なお新しい技法が生まれている絞りの世界!寺田「絞りにはそれぞれ基本の技法はありますが、職人さんたちはそれをベースにしながら、皆さん工夫して作っています。実は絞りの技法には「こうしなくてはならない」というものはあまりありません。
だから失われてしまう技法はあるものの、新しく生まれる技法もあるんです。これから先、新しい絞りの技法が生まれる可能性だってありますよ。
絞りが失われないためにも、皆さんには、たくさん着ていただきたいなと思います。付け下げなら、合わせる帯によってさまざまな場所で着られます。また、ここぞという時には総絞りの出番。美の共演のような華やかな場面や、奥様というお立場の時などに着ていただけたらと思います」
ふわりと空気を含んだ絞り特有の温もり、染色が滲んで生まれるアンニュイな境界線……。これまでは絞りを見ているだけで幸せな気分に包まれていましたが、今回絞りの世界の入り口を覗かせていただき、ますます好きになりました。寺田さんまた色々教えてください。どうもありがとうございました。
●京絞り 寺田http://kyoshibori.com 構成・文/笹本絵里 中島敦子 ※この連載で取り上げて欲しい、皆さんの「いまさら聞けない」きものの基本&疑問をぜひ お聞かせください! 件名「イチから始めるきもの道」と明記し、メールにてお寄せください。 E-mail:k-salon@sekaibunka.co.jp